夜明けの海


 女を扱う事に慣れていても、今のこの状況には然程その教訓は活かされないだろう。
 身体の作りが元から違うのだから、女が良い所も男じゃあ、そう簡単に良くはならない。
 けれど初めて女性を抱いた時より飲み込みが早いのは、きっと自分が同性だからなんだと思う。

 煩わしい衣類は早々に解いて身体に引っ掛ける程度にすると、外気に触れた肌がぴくりと反応する。
 アルフレッドは俺の服にも手を掛けていたけれど、思うように手が動かないのか、中々俺の肌は見えてこなかった。
 着こんでいる枚数にもよるだろうけれど、装飾が幾らか多い俺の服は慣れていないと脱がせるのは難しいだろう。
 上手く脱がす事が出来なくてもどかしいらしく、アルフレッドは眉間に皺を寄せてぷすり、と頬を膨らませた。

「破きたい」
「阿呆かお前は。良いから大人しくしてろ」
「ぶー、だって俺だけ脱ぐなんて嫌なんだぞ」

 ぶつぶつと文句を連ねる奴のシャツを剥ぎ取り、落ちていた上着ごと隣のベッドに放り投げる。その間にもやっぱり俺の服を脱がそうとしていたけれど、結局ボタンがいくつか外れた程度だった。
 後ろから差し込まれる光に照らされて、アルフレッドの滑らかな肌が白く光る。俺とは違う目立つ傷が無い綺麗な肌に指を這わせると、上の方から声が上がった。
 これだけ綺麗な肌をしていると言う事は、こいつは余程大切にされてきたんだろうな。血生臭い戦を経験していないと言うか、生きている日が浅いと言うか。
 薄っすらと残っているかすり傷程度の傷痕は見た限りでもごく僅かだし、治りが早いとしてもこいつの国自体、それほど傷付けられた歴史は無いんだろう。きっと世界が安定しているんだろうな。
 国としてどう反応すれば良いのか分からないけど、少なくとも今の時代よりは良い時代なんだろうな。こんな風に国同士が触れ合えるんだし。
 アルフレッドには見えないように小さく笑って頭を振る。…とにかく、今はこちらに集中しなければ。
 さてどうしたものか、とぺたぺた奴の肌に触れて反応が良さそうな所を探っていく。男も胸とか良いんだろうか?自分じゃあ良いとは思わないんだけどな、と膨らんだ双方の突起に口を寄せると、あからさまにアルフレッドの身体が跳ねた。

「わ、あ、ちょっと」
「んあ?何だよ、前戯いらねえのか」
「まあ正直言うと限界だからね…じゃなくて!俺は別に」
「なら早く言えよばぁか。最初は手で我慢しろよ」
「え、ちょ」

 潜り込んだズボンの奥にはしっかりとした熱が宿っていて、少し扱っただけでも直ぐに達してしまうんじゃないかと言う程脈打っていた。
 アルフレッドの上に覆い被さる形で寝転がっている為、目には入らなかったけど、くしゅり、と先走りの水音が聞こえて媚薬が効いているんだろうなと改めて理解する。
 自分の下肢から卑猥な音が零れて顔を真っ赤に染めるアルフレッドは、男の癖に何処か可愛く思えてくる。あーくそ、俺は同性には興味ねえって。可愛く思えてくるなんて嘘だ、嘘に決まってる。
 それなのに切なげに震える睫毛とか、歯を食いしばるその口に指突っ込みたいとか、段々変な方向に思考が向かっていく気がする。これじゃあエロ大使と言われても否定できなくなるぞ、俺。
 いやいや、俺はアブノーマルな趣味とか無いし、やる気も無いってのに。くそ、こいつ反応可愛過ぎるだろ、馬鹿。
 自分が言われても嬉しくないし可愛いとは思わないけど、この真下の奴にはその言葉が似合うと思う。声を漏らさないように手で抑えてる所とか、アホ毛が触覚みたいにぷるぷるしてる所とか、まるで女みたいだ。
 でもこいつは何処からどう見ても男だし、筋肉も付いてがっしりとしている。力比べをしたら絶対に俺じゃあ勝てないだろう。それほど力が強いと言うのに、どうして可愛いと思うんだろう。不思議だ。
 ついに俺の脳内も腐り始めたんだろうか。頭に手を当てたくなったけど、今はその余裕なんてなかった。

「おい、ちょっと腰上げろ」
「ぅ、ううー…っ」

 俺の言う事に素直に応じるのはそろそろ理性が砕けてきているからなんだろう。浮いた腰から下着ごとズボンを引き抜いて、アルフレッドの性器に直に触れる。
 ごとり、と音を立ててベルトが落ちて、ついでに煩わしかった手袋も一緒に床に落とした。
 肌に直接触れる感じは自分のと然程変わりは無い。ゆっくりと、けれど早急に快楽を引き出していく。上下に手を動かせばぐしゅぐしゅと粘着音が部屋に響いた。あー、えっろい音。
 唸り声を上げるアルフレッドの声も手の動きに合わせて段々と早くなっていき、顎を伝って唾液が零れ落ちる。それを勿体無いと思わず舐めると、細められた瞳が揺れ動いた。

「え、ろい」
「うるせ」

 お前の方がエロいんだよ馬鹿、とぽつりと呟いて曝け出された首にがぶりと噛みついた。うああ、と上がる声は裏返っていて普段の奴からじゃ想像も出来ない程に甲高い。
 また背中の辺りがぞくぞくしてきて、どうやら自分も欲情しているらしかった。ああ、男相手に何反応してんだろう。
 自分の中で生理現象なんだから仕方ないと勝手に言い訳を作って擦れ合う指を先端の方へと追いやって行く。シーツの上でアルフレッドの足がばたばたと暴れてそろそろ限界なのだと分かる。
 ぐい、と人差し指で敏感な部分を押して反応を示した胸の突起を舌で転がす。それだけでアルフレッドはかくん、と頭を仰け反らせて白濁を散らした。
 力を入れられた所為で掴まれていた髪が痛かったけれど、それ以上に自分の手淫で感じてくれた事にほっとする。ほら、自分でやる事はあっても他人のそれを奉仕するって事は無いだろ、だからほんのちょっと不安だったんだよ。
 どろりとした液体は不快なものでしかなかったが、それでもイったと言う印なんだから素直に嬉しい。普通男に触られても萎えるだけだしなあ(もちろん俺だって)。
 濡れた指を音を立てて食んで(まずい…)、アルフレッドの頬に軽くキスをする。肩で息をしていた奴は眼鏡の奥で目を細めて、薄っすらと俺に向かって微笑んだ。あ、なんか脈拍が上がった気がする。

「ありがと、アーサー」
「礼は別に要らねえよ。それよりまだやんのか?」
「ん…したい所、だけど…君はいいのかい?」
「ばーか、さっきも言っただろ。お前がそう望むなら付き合ってやるって」
「なんかアーサーがアーサーらしくないぞー、デレがおおい」

 けらけらと笑うアルフレッドは気だるそうな身体を起こして俺の額にちゅ、とキスを落とす。五月蠅え、馬鹿、って口を尖らせ暴言を吐くと、今度は口唇にキスされた。
 触れ合うだけのソフトキスは付き合い始めて間もない者達がするように何処か初々しい。まだ子供なんだなあとぼんやりと思っていたら俺の考えている事が分かったのか、アルフレッドはブーイングと共にディープキスをしない理由を告げた。
 なんでも俺を本気にさせない為らしい。どう言う事なんだ、と首を傾げて問い掛けたら自分の心に聞けと突っぱねられた。何だよくそ、気になるじゃねえか。
 軽く触れ合うより俺は深く入り込む事が好きで、情事の際はソフトキスはあまりした事が無い。大体ディープキスだし、そっちの方が気持ちが良いからだ。
 その事を知っていてこいつは俺に深いキスをさせないと言うのか?なんか説得力に欠ける理由だけど、今の所思いつく所が無いので早々に考える事は止めた。
 どうせこいつの理性ぶっ飛んだ時にでもすれば良いだけの話だしな。その為にももっとどろどろに溶けさせなければ。
 一度達しただけでは足りないらしいアルフレッドの性器に再び指を這わせて見上げるように目尻を緩ませる。きらりと光るレンズに反射して自分の顔が見えて死にたくなったけど、この際何も見なかった事にしよう。

「ん、次はどうして欲しいんだ?」
「…きみが良ければ、その口で」
「変態だな、了解」
「君にいわれたくないんだぞ…」

 何回目かの暴言は奴の耳には届いていないようだった。

 男の、しかも同性のそれを口に入れるなんて最初は抵抗があるかと思ったけれど、手淫と同じと考えればすんなりと受け入れられた。常識ある者としてその結論は駄目なような気もするけれど、現にこうして舐めてんだから仕方ないだろ。
 と言うか、やり方は一応知っているが実践する事は初めてなので要領が良く分からない。女がやっていた事を思い出してもおぼろげな記憶しか出て来なかった。
 とにかく気持ち良さそうな所を舐めたりすりゃ良いんだろうか?後は口の中に入れて、それから…えーっと。
 手探り状態でてらてらと光るペニスに舌を這わせる。さっき出された白濁が残っていてお世辞にも美味しいとは言えなかった(よく飲めるよな、こんなまずい物)。
 全体的に唾液を絡ませて、ぴん、と立つ裏筋を舌全体を使って舐め上げて行く。口の端から雫が零れ落ちたけど気にせず突っ掛かりのある場所まで舌を進めた。あ、震えてら。
 先端には優しくちゅ、と軽めのキスをして少しだけ口の中へと受け入れる。円を描くように口腔で舌を動かしたらアーサー、と切羽詰まった声が俺を呼んだ。

「っん…良くなかったのか?」
「…逆だよ、なんでそ、んなにうまいのさ…また出そうなん、だけど」
「はえーぞ」
「ううー!もうぜんぶ媚薬の所為、なんだぞ…!」

 ぎゅっと目を閉じてアルフレッドはぱくぱくと口を開閉させる。あ、あ、と掠れた声で喘ぐ姿はエロくて可愛い。
 いっそ最後まで致しても構わないと思ってしまう程、俺の息も上がっていた。じくじく、ぞわぞわ、胸の奥からカッと熱が溢れだして頬が赤らむ。
 やっべ、俺もやりたい気分になってきた。下半身が俺の意思に反応して物欲しそうに首を擡げる。あっつい、きつい。
 気を紛らわせようとじゅぷん、と粘っこい音を立てて歯が当たらないようにペニスを一気に根元まで咥えこむ。奥の方まで行き過ぎて噎せそうになったけれど何とか踏み止まり、じんわりと染み出した唾液を飲み込む為にこくりと喉を鳴らした。

「う、あ」
「んん、んぅ…ぐ」

 震える手は俺の髪を掴んでぐいぐいと押し込んでいく。まるで奥へ奥へと行きたいように、俺の頭を押し付ける。
 それが雄の本能であるからして、拒絶する事はしないかった。けど本音を言うともう少しだけ力を加減してほしかった。苦しくて目の前に星が飛び始めてるし。
 でもそれでこいつの苦しさが紛れるのであればこれくらい、どうってこと無い。こんな苦しさも興奮する一つの材料なのだから。
 こぷ、と上下した口から唾液と先走りが混じった液体が流れ落ちて、シーツを汚していく。あー、えっろい。ぞくぞくする。
 なんかもうこいつでも良いから俺も突っ込みたくなってきた。くそ、早く終われ。

 溢れ出す液体を飲み下してぼんやりとそんな事を考える。
 アルフレッドが二度目の精液を飛ばすまで、あと三秒。


 

back ■home ■next

酷い終わり方\(^o^)/  え、これって米英…だよね…?

[2010.04.25]