H*Fから少女Aへ

 全世界から人が集まる大規模オンラインゲーム、「ヘタリアファンタジア」。
 正式サービスが開始される前から注目を集めていたこのオンラインゲームはシステム良し、クエスト良し、ゲームバランス良し、グラフィック良し、運営も良し、と何から何まで素晴らしい出来だった。
 自分の思い通りにキャラクターを成長させる事が可能なので遊びの幅も広がる。
 世界中から人が集まると言う事で交流も盛んで、人は溢れかえるように沢山接続していた。

 そんな中、私ことは誰とも話をせずに黙々と敵を狩り続けていた。
 フィールド湧きの敵くらいなら雑魚なので私でも叩けば直ぐに倒せるし、一人で黙々とした方が効率が良かったりするのだ。
 そりゃあ、色んな人とパーティを組んでわいわいするのも良いかもしれないけれど、それだとやる事が限られてくる場合が多い。
 話しかけられた分は断らないけれど、自分から話しかけに行くのは正直…気が引けたりする。
 ちなみにパーティと言うのは一緒に狩りに行ったり話したりする少人数の集まりの事。
 一人の時は自分にしか経験値は入らないけれど、パーティを組むと組んだ人全員に経験値が入るのだ。しかも経験値がアップするボーナスが付いたりするのでLvを上げるにはこれが一番効率が良い。
 私はLvよりこのフィールドに居る敵が落とすレアアイテムの方が欲しいのでソロ(一人の事)で地道に頑張っているのだ。

「でも全然出ないんだよね…」

 あれから何時間同じ敵を狩り続けた事だろうか。狩っても狩っても出るアイテムは端金にしかならないゴミばかり。
 そろそろ別のアイテムに照準を定めた方がいいのかもしれないなあ。でもここのレアアイテムって高値で売れるんだよね…。
 カチカチとキーボードを操作しながら出現した敵を片っ端から倒していき、危なくなれば魔法を唱えて回復する。
 数回それを繰り返して、やっぱりアイテムが出ない事を確認して私は移動を開始した。

「仕方ない、今日は諦めよう…」

 きっと今日は運が悪かったに違いない。
 無差別に攻撃してくるアクティブの敵を避けつつフィールドを駆け、別のフィールドへと移動する。
 敵の居ない街のエリアはあと二回程エリア移動をしなければならない。
 その間に攻撃されないように敵の居ない端っこを駆けながら私はアイテム整理をした。
 うーん、やっぱり何度見ても良いアイテムは出てない。出たアイテムを全部売ったとしても一万ヘタ行くかどうかわからない。
 ヘタはこのゲーム内のお金の単位だけど、一万ヘタあったとしてもHPやMPを回復するポーションを二か三スロット買うだけで全部飛んでしまうような金額だ。
 スロットと言うのはバッグのアイテムの事。アイテムによって一スロットに入るアイテム数が違っていて、一スロットに一つのアイテムしか入らない場合もあれば、回復とかのポーション系は一スロットで100個以上入る事もある。
 このゲームの主な回復アイテムのポーション(HP回復アイテム)とエーテル(MP回復アイテム)の一スロットの上限は999個なので正直一万ヘタはそれほど安くはないのかもしれない。
 まあ、数時間狩り続けてその結果が一万ヘタだと私は悲しいんだけど。もっと何十万も一気に稼げたら良いのになあ。
 手っ取り早いお金の稼ぎ方はこうして延々と敵を狩り続けるか、フィールドとは違う、ダンジョンと言う場所に行くのが早い。
 ダンジョンは経験値も多く、良いアイテムも比較的出やすい場所だけど、私のようにソロで挑むにはちょっときつい場所だ。
 元々パーティ必須な場所なので当たり前なのは当たり前なんだけど…私のような声を掛けようにも掛けれない人には別世界の話だ。
 ああ、でも行きたい。自分のLvより低いLvの場所だとソロでも行けるのだが、その分敵が落とすアイテムの確率が下がってしまうので行ってもあまり意味がないのだ。
 こればっかりはゲームの仕様だからなあ。やっぱり全体チャットで募集しているパーティに突っ込んでいった方がいいのかなあ。

 いつの間にか街のエリア一歩手前のフィールドまで辿りついていて、隅の方を走っていた自分のキャラを移動させる。
 ここは街に行くまでの道にアクティブの敵が居ないのでフィールドの真ん中を歩いていても安全だ。
 走り去る際に行く手を阻むノンアクティブの敵(こっちから攻撃しないと攻撃してこない敵の事)をぺしぺしと倒して行くと街の入り口が直ぐ傍まで来ていた。

「こんにちわ!」
(ふぇ?)

 街に入ろうとした一歩手前で一般チャット(このフィールドだけに表示される全体チャットみたいなの)でログが表示される。
 びっくりしてきょろきょろと辺りを見回すと、そう遠くない場所で挨拶の吹き出しを出した人達が居た。
 なにやら相手の人もきょろきょろと忙しなく動いていて、首を傾げつつ私は話し掛けていいものやらちょっと悩んだ。
 周りには発言した人達と、私だけ。もしかしなくても、私に声を掛けたんだろう。
 一人が私に近付いてきてもう一度挨拶のログが表示されて、悩んだ挙句、私はその挨拶に返答した。

「こんにちは〜。えっと、何か用ですか?」
「えっとねー、おれたちと一緒にぱーてぃ組まない?」
「はぁ…」

 たどたどしい発言の仕方は操作している人が子供なのか、それとも単にパソコンが苦手なのか。
 特に用事も無いし、時間はあるので誘ってもらえれば喜んでパーティに入らせてもらうのだが、私みたいな見知らぬ人がパーティを組んでいいのかどうか悩む。
 こんな風に話しかけられるのは少なくないけれど、そのほとんどはフィールドで敵を倒している時だ。「一緒に狩って経験値稼ぎませんか?」が第一声。
 それなのにこの人はこんな街の一歩手前でなにをする理由も言わずに話し掛けてきた。まあ、それも構わないんだけど、ちょっと訝しい。
 どうしようか十数秒悩んでいたら、駆けよってくる前に居た場所から一緒に同行しているらしい人達がこちらに向かって話しかけてくれた。

「突然すみません、もしよろしければ一緒にダンジョンに行ってくれませんか?三人では心許ないので…」
「えっと、Lvいくつのダンジョンですか?私、足手まといになるかもしれないので」
「45です。大丈夫ですか?」
「うーん、それなら何とかなりそうです」

 駆けよってきた一人がそう話し、こちらの人はこのゲームに慣れているんだろうな、と直感で思った。
Lv45と言えば経験値は中々だ。今の私のLvは48なので下手な事をしない限り足手まといにはならないだろう、多分。
 変な動きをして死んだり、敵を釣ってきたり(戦闘準備もせずに呼び寄せる事)したことはないのできっと大丈夫な、はず。
 ありがとうございます、と嬉しそうにその人は発言し、パーティ招待のダイアログが表示された。
 パーティリーダーの名前はその人のようで、横に表示されたのはLv51、ホワイトマジシャンの文字だった。
 ほわあ、この人私と同じ回復職の人だ。

 【菊、ルートヴィッヒ、フェリシアーノのパーティに参加しました】

 断る事をせずに招待されたパーティに入ると、目の前に居た人達の簡易ステータスが表示される。
 菊、と言うのはパーティリーダーの方でさっきも見たように私と同じ回復職の人だ。でも私の職業はビショップで、ホワイトマジシャンは私の職業の一つ上の職業だった。
 ルートヴィッヒ、と言う方はLv53のクルセイダーと言う戦士職の人だった。この人がこのパーティの中で一番Lvが高い。
 そしてフェリシアーノ、と言う方は一番初めに私に話しかけてきた人で、Lvは…1だった。

「なんだか凄いLv差があるパーティなんですね」
「あー、フェリシアーノはずっとサボっていたからいつの間にかこんな差になってしまったんだ」
「ヴェー。しえすたしてたら二人とも強くなっててびっくりしちゃったよ〜」

 ルートヴィッヒさんがログの文字でも分かる位に呆れた様子で発言する。
 その発言に少し遅れてフェリシアーノさんが謎の単語と共に発言して(ヴェーってなんだろう)笑うエモーションを押したのか、キャラがきゃっきゃと言って喜んだ。
 それにしてもあまり見ない装備をしているかと思えば、何てことない、私が見た事のない未知のLvの装備なだけだった。
 このLvになればちらちらとLv50台の人達を見かける事もあるけれど、そんなにすれ違う事はない。
 狩り場(敵を倒すフィールドの事)のLvが合わないのは勿論のこと、そのフィールドに近い街も違うから、もっとLvの高い狩り場に行ってその辺りにある街に行けば簡単に見た事のない装備をしている人達を見つけられるだろう。
 まあ、その街に行く前にアクティブの敵に殺される確率の方が高いけど。
 その事を素直に言ってみると、Lv50台の二人はそんな事無い、と言って笑ってくれた。

「安全な場所を通れば直ぐに着きますよ。40代に比べれば移動も楽ですし」
「そうなんですか?」
「街を中心に狩り場が広がっているからな。その所為で一歩変な場所に入ったら即死だが」
「なるほど…」

 もうすぐ行けるであろうその場所の話を聞きながらゲームの外でうんうんと頷く。
 その間にカーソルを移動させて興味本位で二人の装備をこっそり覗かせてもらって、びっくりした。
 装備の名称の文字が普通の装備の色と違う。ルートヴィッヒさんは武器と盾、その他全身装備が、菊さんに至ってはアクセサリーまで全て装備の名前の色が違っていた。しかも武器は更に別の色をしている。
 その色が意味するのはどれだけその装備が希少なのかを示している。所謂、レア装備。更に菊さんの武器はレア中のレアを意味する色だ。
 どれだけこの人達が凄いのか、今更思い知って私は本当に足手まといにならないか頭を抱えた。
 そして菊さんの武器が同じLvの、普通の武器と比べて魔法攻撃力がどれだけ違うのか比べて心底思った。
 私、いらないんじゃない?だってなんか攻撃力が20以上違うんですけど!なにそのチート装備!すごい!

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菊さんはチートさんだからこれ位なんてことない。しかも強化してない。してたらバランスブレイカーになりそうだ。

[2009.11.05]