アントーニョ氏と、
「ちゃんちゃん、ええもん見せたるで〜」
「え?あの、ちょっと」
そう言ってアントーニョ氏に連れられ、早数時間。
イタリア付近で仕事をしていたにもかかわらず、私は何故かスペインに連行されていた。
アントーニョ氏がどうしてイタリアに居たのかとか、どうして私を連れ去ったのとか、つっこみたい所は沢山あったけれど、今のアントーニョ氏に言葉は通じなさそうだったので止めておいた。
それに聞かずとも少し考えれば答えが自ずと見えてくると思ったからだ。
どうしてイタリアに居たのかは、きっとフェリシアーノさんかロヴィーノさんに会いにいっていたんだと思う。しょっちゅう弄っているらしいですし。
私を連れ去ったのはアントーニョ氏が言った「ええもん」を見せる為なのだろう。何故私なのかは分からないけれど。
ぶっちゃけて言うとアントーニョ氏とはそれほど親しい仲ではない。
今までだって数回会った程度だし、話もそんなにはしていない。どんな人なのかは周りの反応で大体は想像出来たけれど。
それなのにいきなり出会い頭に連れ去られるとは思っていなかったので、私はどうすれば良いか悩んでいた。
うまい具合に逃げる事が出来たら良いんだけど、きっとアントーニョ氏には効かないんだろうな…。
仕事してたのに…上司に怒られそうだ。
「…あの、アントーニョ氏?何処に行くんですか?」
「ん?俺の家やで〜。もう直ぐ着くからな!」
「はあ…」
軽々と他人を家に上がらせるなんて、やっぱり外国文化は慣れません…。
もっと警戒するとか遠慮するとかないのかなあ。遠慮は私の方がするものだけど…この人させてくれなさそうだし。
今日はいつ帰れるのか、そんな事を考えて私はずるずるとアントーニョ氏のお宅へと連行されていった。
「なー、ちゃんって可愛い子好きなんやろ?」
「は?」
「菊ちゃんに聞いたでー。しょた?とかが好みって「うわあああアントーニョ氏そんな爆弾発言要りませんからああ!」
うっかり自分の好きなものを暴露されて周りに人が居ないか辺りを見回した。
幸い近くに人の気配は無いらしい。危ない、暴露されてついあられもない叫び声をあげてしまった。
普段は大人しい私の変貌にびっくりしたのか、アントーニョ氏が目を丸くしてどうしたん?と首を傾げる。
きっとアントーニョ氏にはショタの意味が分かっていないんだろう。だからあんなにさらりと言ってのけたんだ。
それよりも菊さんは一体どんな状況でアントーニョ氏に私の事を吹き込んだのだろう。帰ったら真っ先に聞くとしよう…。
いきなりの事で頭が痛くなってきて、溜め息を吐きながら頭をおさえた。
「なー?どうしたん?俺なんか悪い事言った?」
「…いえ、平気です…。それよりも…その、私が可愛い子好きなのがここに誘拐されたのと関係があるんですか?」
「誘拐ちゃうで!」
「あ、すみません。連行でした」
「うー、まあええわ…。関係あるって言っちゃあるよー」
そう言ってアントーニョ氏は古いダークブラウンの本棚から分厚い背表紙の本を取り出した。
見た所本のタイトルは書かれておらず、作者も書かれていないシンプルな作りをしている。
アントーニョ氏は同じ様な色の本をいくつか取り出して、その一冊を私に手渡した。
なんだろう、と首を傾げて表紙をめくると、そこには年号らしき数字が書かれているだけだった。それも随分古い年号だ。
「…これは?」
「次のページめくってみ」
「?なにが…」
書いてあるんだろう、と言い掛けた口がそこでぴたりと停止した。
そこに描かれていたのは文章でもなく絵でもなく、…写真、だった。
しかも見た事が無いとは言えない茶色の短髪にくるんと一本だけ飛び出た特徴的なくせ毛。
スカートを穿いている事に疑問を抱くが、可愛らしく眠っている姿にそれほど違和感は感じなかった。
そこで初めてこの本がアルバムだと分かる。しかもよく見知った、先ほどまで居た場所の人の…アルバムだ。
「なー、なー、かわええやろー?楽園みたいやろー?」
「これ…フェリシアーノさん…ですか?」
「それはロヴィやでー。で、フェリちゃんはこっち」
「なんと…あのロヴィーノさんですか…」
一瞬いつものぽやぽや顔のフェリシアーノさんとつんつんしているロヴィーノさんが頭を過ぎる。
あの二人の子供時代なんて想像もしていなかった。まさかこんなに可愛らしい子供だったとは…。
兄弟だからか見分けが全くつかない。服も似たような感じだし、分かるのは髪の分け目とくるんの方向だけだ。あとは瓜二つのようにそっくり。
写真を撮っている主に笑いかけている小さいフェリシアーノさんはまるで女の子の様に可愛らしかった。
「あの二人って子供の時からあんな感じだったんですか?」
「そうやなー。フェリちゃんもロヴィーノも全然変わってないで」
「…なんだか二人の子供時代の想像が簡単に出来るところがなんとも言えない…」
それだけ成長していないと言ってしまえば、怒られるのだが(特にロヴィーノさんに)。
ぱらぱらとアルバムをめくっていくと、若かりし頃のアントーニョ氏やローデリヒさん、エリザさんも一緒に居る写真が多い事に気付く。
確かフェリシアーノさんってローデリヒさんの家に居た頃があったんだっけ…その所為かあ。
…歴史の事はあまり深く学んだ事が無いので正直どうしてそうなったのかは分からないけれど。…一応たくさんの国と関わり合っている訳だし、勉強した方がいいかなあ。でも呼び出しとかされるから暇な時間があんまりないのが現状なんですよね…。
あれ?でもローデリヒさんの所に居たフェリシアーノさんの写真がどうしてアントーニョ氏の家にあるんだろう。
写真を撮りに会いに行っていたとか?…いや流石にアントーニョ氏でもそれは無いか…。
その事を本人に聞いてみると、簡単に答えが返ってきた。
「譲ってもらったんやでぇ、必要無いって言うたから有難く」
「…そうですか」
「だってこんな可愛い写真捨てる訳にはいかんやろ!捨てたら軍率いて攻め込んだるわ!」
「落ち着いて下さい、アントーニョ氏」
なんだか情熱を注ぐ部分が違うと思いますアントーニョ氏。…いや、私から言わせてみるとあながち間違ってはいませんけど。
部屋の温度が少しだけ上昇した事を軽くスルーして私は食い入るようにアルバムをめくった。
好きなものだから仕方ないと言えば仕方ないのだけども、やっぱりときめく写真の相手が知り合いだと少し気が引けてしまう。
まあ心の奥底でそう思っているだけで実際は頭に刻み込むようにじっくり見ているんですが。だって可愛いじゃないですか!
アントーニョ氏の言っている事に内心精一杯同意しつつ、顔がにやけてしまうのを必死に隠す。
理性がぶっ飛んでしまったら大変な事になってしまうからだ。同士である菊さんにもまだそんな姿見せていないのにアントーニョ氏に見られる訳にはいかない。
心の中で天使と悪魔が一騎打ちしている最中にこの楽園から抜け出せればいいのになあ…あんまり抜け出したくないけど。
「それで…どうしてまた私にこのアルバムを見せようと思ったんですか?」
「んー?それはな、フェリちゃんとロヴィーノの家行ったら二人仲良く昼寝しててむっちゃ可愛かって子供の頃と変わってないなあって思い出したらアルバム見たくなって帰る最中にちゃん見かけたから連れてきたんやけどホンマあの二人かわいすぎるでなあ!もう親分むっちゃ幸せでどうにかなってしまいそうやでー!」
「…はあ」
よく息続いたなぁと感心しつつ、アントーニョ氏の思っている事に共感している自分が居た。
いや、だって本当にあの兄弟可愛いと思いますし。アルバムを見ていると余計にそう感じてしまいますし。
…数枚くらい焼き増しして貰おうかな…。皆さんの子供の頃の写真とか全くと言っていいほど無いですし、ロヴィーノさんはあんまり写真を撮らせてくれないのでこんな可愛い写真はとても希少だ。
そしていつの間にか仕事の事も忘れてアントーニョ氏とアルバムを漁り放題してしまい、上司にこっ酷くお叱りを受けるまで数十時間。
けれど私の懐には焼き増ししてもらった可愛らしい寝顔のヴァルガス兄弟の写真が数枚入っているのである。
ちなみにあの後アントーニョ氏もロヴィーノさんに頭突きを喰らったらしい。ご愁傷様です。
「え?あの、ちょっと」
そう言ってアントーニョ氏に連れられ、早数時間。
イタリア付近で仕事をしていたにもかかわらず、私は何故かスペインに連行されていた。
アントーニョ氏がどうしてイタリアに居たのかとか、どうして私を連れ去ったのとか、つっこみたい所は沢山あったけれど、今のアントーニョ氏に言葉は通じなさそうだったので止めておいた。
それに聞かずとも少し考えれば答えが自ずと見えてくると思ったからだ。
どうしてイタリアに居たのかは、きっとフェリシアーノさんかロヴィーノさんに会いにいっていたんだと思う。しょっちゅう弄っているらしいですし。
私を連れ去ったのはアントーニョ氏が言った「ええもん」を見せる為なのだろう。何故私なのかは分からないけれど。
ぶっちゃけて言うとアントーニョ氏とはそれほど親しい仲ではない。
今までだって数回会った程度だし、話もそんなにはしていない。どんな人なのかは周りの反応で大体は想像出来たけれど。
それなのにいきなり出会い頭に連れ去られるとは思っていなかったので、私はどうすれば良いか悩んでいた。
うまい具合に逃げる事が出来たら良いんだけど、きっとアントーニョ氏には効かないんだろうな…。
仕事してたのに…上司に怒られそうだ。
「…あの、アントーニョ氏?何処に行くんですか?」
「ん?俺の家やで〜。もう直ぐ着くからな!」
「はあ…」
軽々と他人を家に上がらせるなんて、やっぱり外国文化は慣れません…。
もっと警戒するとか遠慮するとかないのかなあ。遠慮は私の方がするものだけど…この人させてくれなさそうだし。
今日はいつ帰れるのか、そんな事を考えて私はずるずるとアントーニョ氏のお宅へと連行されていった。
「なー、ちゃんって可愛い子好きなんやろ?」
「は?」
「菊ちゃんに聞いたでー。しょた?とかが好みって「うわあああアントーニョ氏そんな爆弾発言要りませんからああ!」
うっかり自分の好きなものを暴露されて周りに人が居ないか辺りを見回した。
幸い近くに人の気配は無いらしい。危ない、暴露されてついあられもない叫び声をあげてしまった。
普段は大人しい私の変貌にびっくりしたのか、アントーニョ氏が目を丸くしてどうしたん?と首を傾げる。
きっとアントーニョ氏にはショタの意味が分かっていないんだろう。だからあんなにさらりと言ってのけたんだ。
それよりも菊さんは一体どんな状況でアントーニョ氏に私の事を吹き込んだのだろう。帰ったら真っ先に聞くとしよう…。
いきなりの事で頭が痛くなってきて、溜め息を吐きながら頭をおさえた。
「なー?どうしたん?俺なんか悪い事言った?」
「…いえ、平気です…。それよりも…その、私が可愛い子好きなのがここに誘拐されたのと関係があるんですか?」
「誘拐ちゃうで!」
「あ、すみません。連行でした」
「うー、まあええわ…。関係あるって言っちゃあるよー」
そう言ってアントーニョ氏は古いダークブラウンの本棚から分厚い背表紙の本を取り出した。
見た所本のタイトルは書かれておらず、作者も書かれていないシンプルな作りをしている。
アントーニョ氏は同じ様な色の本をいくつか取り出して、その一冊を私に手渡した。
なんだろう、と首を傾げて表紙をめくると、そこには年号らしき数字が書かれているだけだった。それも随分古い年号だ。
「…これは?」
「次のページめくってみ」
「?なにが…」
書いてあるんだろう、と言い掛けた口がそこでぴたりと停止した。
そこに描かれていたのは文章でもなく絵でもなく、…写真、だった。
しかも見た事が無いとは言えない茶色の短髪にくるんと一本だけ飛び出た特徴的なくせ毛。
スカートを穿いている事に疑問を抱くが、可愛らしく眠っている姿にそれほど違和感は感じなかった。
そこで初めてこの本がアルバムだと分かる。しかもよく見知った、先ほどまで居た場所の人の…アルバムだ。
「なー、なー、かわええやろー?楽園みたいやろー?」
「これ…フェリシアーノさん…ですか?」
「それはロヴィやでー。で、フェリちゃんはこっち」
「なんと…あのロヴィーノさんですか…」
一瞬いつものぽやぽや顔のフェリシアーノさんとつんつんしているロヴィーノさんが頭を過ぎる。
あの二人の子供時代なんて想像もしていなかった。まさかこんなに可愛らしい子供だったとは…。
兄弟だからか見分けが全くつかない。服も似たような感じだし、分かるのは髪の分け目とくるんの方向だけだ。あとは瓜二つのようにそっくり。
写真を撮っている主に笑いかけている小さいフェリシアーノさんはまるで女の子の様に可愛らしかった。
「あの二人って子供の時からあんな感じだったんですか?」
「そうやなー。フェリちゃんもロヴィーノも全然変わってないで」
「…なんだか二人の子供時代の想像が簡単に出来るところがなんとも言えない…」
それだけ成長していないと言ってしまえば、怒られるのだが(特にロヴィーノさんに)。
ぱらぱらとアルバムをめくっていくと、若かりし頃のアントーニョ氏やローデリヒさん、エリザさんも一緒に居る写真が多い事に気付く。
確かフェリシアーノさんってローデリヒさんの家に居た頃があったんだっけ…その所為かあ。
…歴史の事はあまり深く学んだ事が無いので正直どうしてそうなったのかは分からないけれど。…一応たくさんの国と関わり合っている訳だし、勉強した方がいいかなあ。でも呼び出しとかされるから暇な時間があんまりないのが現状なんですよね…。
あれ?でもローデリヒさんの所に居たフェリシアーノさんの写真がどうしてアントーニョ氏の家にあるんだろう。
写真を撮りに会いに行っていたとか?…いや流石にアントーニョ氏でもそれは無いか…。
その事を本人に聞いてみると、簡単に答えが返ってきた。
「譲ってもらったんやでぇ、必要無いって言うたから有難く」
「…そうですか」
「だってこんな可愛い写真捨てる訳にはいかんやろ!捨てたら軍率いて攻め込んだるわ!」
「落ち着いて下さい、アントーニョ氏」
なんだか情熱を注ぐ部分が違うと思いますアントーニョ氏。…いや、私から言わせてみるとあながち間違ってはいませんけど。
部屋の温度が少しだけ上昇した事を軽くスルーして私は食い入るようにアルバムをめくった。
好きなものだから仕方ないと言えば仕方ないのだけども、やっぱりときめく写真の相手が知り合いだと少し気が引けてしまう。
まあ心の奥底でそう思っているだけで実際は頭に刻み込むようにじっくり見ているんですが。だって可愛いじゃないですか!
アントーニョ氏の言っている事に内心精一杯同意しつつ、顔がにやけてしまうのを必死に隠す。
理性がぶっ飛んでしまったら大変な事になってしまうからだ。同士である菊さんにもまだそんな姿見せていないのにアントーニョ氏に見られる訳にはいかない。
心の中で天使と悪魔が一騎打ちしている最中にこの楽園から抜け出せればいいのになあ…あんまり抜け出したくないけど。
「それで…どうしてまた私にこのアルバムを見せようと思ったんですか?」
「んー?それはな、フェリちゃんとロヴィーノの家行ったら二人仲良く昼寝しててむっちゃ可愛かって子供の頃と変わってないなあって思い出したらアルバム見たくなって帰る最中にちゃん見かけたから連れてきたんやけどホンマあの二人かわいすぎるでなあ!もう親分むっちゃ幸せでどうにかなってしまいそうやでー!」
「…はあ」
よく息続いたなぁと感心しつつ、アントーニョ氏の思っている事に共感している自分が居た。
いや、だって本当にあの兄弟可愛いと思いますし。アルバムを見ていると余計にそう感じてしまいますし。
…数枚くらい焼き増しして貰おうかな…。皆さんの子供の頃の写真とか全くと言っていいほど無いですし、ロヴィーノさんはあんまり写真を撮らせてくれないのでこんな可愛い写真はとても希少だ。
そしていつの間にか仕事の事も忘れてアントーニョ氏とアルバムを漁り放題してしまい、上司にこっ酷くお叱りを受けるまで数十時間。
けれど私の懐には焼き増ししてもらった可愛らしい寝顔のヴァルガス兄弟の写真が数枚入っているのである。
ちなみにあの後アントーニョ氏もロヴィーノさんに頭突きを喰らったらしい。ご愁傷様です。
HOME 

少しだけ親分に親近感が湧いた夢主ちゃんでした。
ちびたりあ時代って写真ありましたっけ?無かったら軽くスルーしてやって下さい…orz
[2009.07.17]
ちびたりあ時代って写真ありましたっけ?無かったら軽くスルーしてやって下さい…orz
[2009.07.17]