全治不可能なまでに、


「本田君?」

 ぐったりと反応しなくなったうつ伏せの彼に、いけない事をしてしまっただろうかと焦る。
 やっぱり行き成り飲ませたのがいけなかったのだろうか?でも早くよくなって欲しいと思って、咄嗟にボトルを突っ込んでしまった。
 歯に引っ掛からない様に彼の口からボトルを引き抜くと、ぽちゃん、と中の液体が音を立てる。小さな無色の瓶にはラベルが付いてなくて、それが自家製だと言う事が分かる。
 一月は経ってない筈だけど、それ位しっかり漬けておいたレモンのお酒。
 僕はあまりウォトカをカクテルにして飲む事が無いから、本田君の為に調べて作ったカクテル、それがこのレモン酒だった。
 出来た時に味見はしたから、まずいって言う事は無いだろうけれど…やっぱり割って飲ませた方がよかったかな?
 でも僕の家ではウォトカはストレートで飲むのが一般的なんだよね。と言うかそれ以外は邪道だし。
 あ、けど本田君がそれ聞いたら「そんな所で自己流貫かないでくださいよ」って怒りそうだ。カクテルなんだし、飲み慣れてない彼には割らないと飲めなさそうな代物だったかもしれないし。
 それだったら悪い事したかも…。急性アルコール中毒になってたりしない…よね?大丈夫?本田君、起きてよー。

「ねえ本田君ー、大丈夫?やっぱりきつかった?」
「…ぅ」
「あ、息はしてる、良かった」

 流石にこんな体勢で息を引き取られても困るのだが(まあ僕達国だしこれしきの事じゃ死なないけどね)、単に気を失っているだけみたいなのでほっと胸を撫で下ろす。
 やっぱりスピリタスを使ったのがいけなかったかな…。でも本田君の所の人ってチャレンジ精神?で飲むとか言ってたし…。
 でも僕もこんなに強いお酒飲むのは久しぶりだなあ。レモン酒を作ったのは初めてだったけれど、案外いけない事もないし、美味しいと言えば美味しいし。
 ちなみにスピリタスと言うのはポーランドで作られているアルコール96度のウォトカの事だ。今回はトーリスに頼んで持ってきてもらったんだよね。彼ってよくフェリクスの家に行ってるし。ふふ。
 このウォトカはストレートで飲むよりカクテルにした方が飲みやすいから、わざわざ調べて作ったんだけどな、本田君が気絶しちゃったのはちょっと残念だ。
 しゅん、と眉尻を下げて、残っているレモン酒を一口飲むと、甘い香りとぴりりとした刺激が喉を通って行った。うん、おいしい。

「ん、ぅ…っ」
「あ、起きた?大丈夫?」
「…。…ふ、あ…?」

 ふるりと身体が震えて目を覚ました本田君は、僕の方へ頭を傾ける。いつもとは違う、ちょっと呆けた表情は寝起きだからだろうか?
 僕はまだ中に入っているそれを出来るだけ刺激しないように気を付けて、彼に顔を近付ける。
 首を傾げてもう一度大丈夫、と問うけれど、本田君はうんともすんとも言わず、僕の顔をぼんやりと見つめていた。なんか、大丈夫じゃなさそうな気がする。
 やっぱり急に飲ませたのがいけなかったかな…、ど、どうしよう。水を飲ませれば大丈夫かな?あ、けどこの状態じゃ水差しすら取れないんだけど…。
 わたわたとどうしようか辺りを見回して、なにか良い方法が無いか探してみるけれど、手の届きそうな場所に目ぼしい物は見つからなかった。うーん、ベッドの上に落ちてる物は役に立たないものばっかりだし、どうしよう…。

「あ、あぅ…。い、ヴァン、さ」
「え、なに?大丈夫?やっぱり抜いたほうがいい?」
「…あ、つい…中、熱い…れす…」

 呂律が回って無い口で本田君はそう言い、ぎゅっと自分の身体を縮こまらせる。あ、ちょっと、僕まだ入ってるのに中きつくしないでよ。
 とくとく脈打つ速度はさっきよりも早くて、彼の頬も頬紅を付けた位に赤くなっていた。熱いのは本当のことらしい。
 どうして急に、と一瞬思ったけれど、そう言えば原因を与えたのは僕だった事を思い出す。ああ、お酒飲ませちゃったからか。
 飲ませたのはほんの僅かだと思ってたのに、まさかここまで酔っちゃうなんて思わなかった。今度からは割って飲ませてあげよう…。
 うんうん、と僕は数回頷いて、荒い息を繰り返す本田君を見やる。苦しそうに眉間に皺を寄せる表情は普段見ていない所為か凄く可愛い。…って、あ。やばい、下半身が。

「ふ、ぁあ…、や、嫌、嫌れす…わた、わたし…ぃっ」
「っ…本田、くん?辛いなら抜くよ?」
「やだ、だめ、れす…!ちがっ…抜いては、いけませ、あ、あ…」
「じゃあ何が違うの?僕分からないよ」
「ぁ、あ…っあ、ぅ」

 いやいや、と頭を振る本田君を落ち着かせ、触り心地が良い髪をゆっくり優しく撫でてあげる。
 それだけで彼の顔はぽやんとした幼い顔を取り戻す。この童顔でお爺さんなんて信じられない位だ。アジアの人達って皆小さいし幼い顔立ちしてるよね、ほんとに。
 本田君は口を開けたり閉じたりして喋ろうとしているみたいだったけど、その口からは嗚咽のような言葉にならない声が出るだけで、何を言おうとしているのか僕には分からなかった。
 上手く喋る事が出来ない彼の目にじんわりと浮かんでくる涙を口唇を寄せて拭き取っていく。安心させるように、大丈夫?平気?僕が傍に居るから、落ち着いて。

「ゆっくりで良いから、何を言いたいのか教えてくれる?」
「は、…ぁ、あ…の、中、熱くて、それで、」
「うん?」
「…お、奥、あつくて、足りない、です。…ぁ、だから、…も、っと…ほしい」

 …ん?今のは幻聴かな?おかしいな、なんか強請られた気がするんだけど、気の所為?
 言葉の端々を掻い摘んで聞けばそう言う事になるんだけど、なんで奥が熱いと足りないのかが分からない。酔っ払いが言う事だから深い意味はなさそうなんだけど。
 本田君は普段言わない事を言った所為か、恥ずかしそうに両手で顔を覆っていた。うわー、そう言う仕草普段からやってくれれば良いのに。いつもメモ帳とカメラ片手によだれ垂らしてるから別人のように思えてくるよ。
 思春期の女の子みたいに頬を真っ赤に染めている彼に、僕まで恥ずかしくなってちょっと顔の熱が上がる。なんだろう、普段とのギャップが強過ぎて凄く意識しちゃうんだけど。
 ああもう可愛いなあ、でもここでたがが外れると滅茶苦茶に抱いちゃいそうだから自制しないといけないな、うん。その所為で嫌われちゃうのは嫌だし。
 けど酔っぱらってるとは言え、本当にこのまま行為を続けちゃって良いのだろうか?正直僕も辛いのは辛いけど、勢いで致しちゃうのはちょっと…本田君が素に戻っちゃった時にどうなるか分からないし。
 初めてがこんな風に奪われちゃっていいのかな…いやいや、でも強請られてるし、ここで断ったら素に戻る前にどうなるか分からない。うーん、今日の僕はよく悩むなあ。

「ふ、あ…っイヴァンさ、ん…」
「…うん。分かったよ。けど素に戻っても怒らないでね?」
「ん、ぅ…は、ぃい…!ひ、あ、ぁあ」

 答えが返ってくる前に、止まっていた挿入を再開する。
 割り開いていく感覚は悪くは無いけど、やっぱり本田君が辛そうなのが気になる。さっきよりは痛みを感じていないようだったけど、身体の大きさも圧倒的に違うから、受け入れるのは彼と同じ体格の人より辛い筈だ。
 ついでに僕大きいしね。あ、ほら、多分一番奥に着いたけど全部入ってないし。まあ予想はしてたから良いけどね、無理矢理入れたらそれこそ色々と危ないから止めとくけど。
 本田君の中は肌に触れる時よりあったかくて、心地良かった。いつも触っている時より、熱が身近に感じられて気持ちが良い。このまま寝ちゃいそうな位、あったかい。
 ふわふわした気分が胸の奥から溢れ出てきて、まるでやわらかいヴェールに包まれてる気分だ。ふわふわ、あったかい。

「イ、ヴァンさ…?」
「あったかいね、本田君」
「ん…んぅ、…ふぁ、い」

 薄目でこちらを見上げてくる本田君の口唇に同じものを重ね合わせて、にこりと微笑む。
 頭に酸素が行き渡っていないのか、本田君はまたぼんやりと呆けた顔をしていたけど、僕が笑ったのを見て同じように頬を緩ませた。あ、やばい。
 ずしりと重くなった腰に反応して、彼の中に入ってるものの質量も増す。本田君もそれに気付いてびくり、と肩を震わせた。

「ねえ、動いていい?」
「…言わせ、ないで…くらは、ぁあ、っ!はしたな、い、ぃ…っ」
「もう十分はしたないと思うけど…。まあ良いや、じゃあ動くねー」
「ひ、あぁあ…!らめ、そんな急に、うごい、…っ!…達し、ちゃ、あ、あ」

 だって動いていいんでしょ、と本田君の耳元で呟いて、彼の腰を押さえる。引き気味になっていたのを抱き寄せたら弱い所に当たったみたいで、首を反らせていつもは出さない甘い声が発せられた。
 ああ可愛いなあ、もう。そんな声出したら僕止めようにも止めれないよ。いっぱい湧き出てくる熱の処理、ちゃんとしてくれなきゃ駄目だよー?
 きっと聞いてないと思うけどさ。だって頭振ってシーツに耳押さえつけてるし。…まあ聞いてても聞いてなくても最後まで付き合って貰うつもりだけど。
 シーツをぎゅっと握りしめて白くなりかけている彼の細い指に手を這わせて、僕は気付かれないように笑みを深くした。


「…と言う感じで可愛かったんだけど…ってなにしてるの本田君?」
「あああもう切腹したいです本当に恥ずかしい穴があったら入りたいです、刀!私の刀は何処ですか!もういっそ叩き斬って下さいいいい!」
「わあ!ちょっと、まだ動いちゃ…」
「っ!…ぉおおぅ…腰が…腰がああ…」
「ほら言ったのにー。今度は素面の状態でするからさー」
「うう…絶対ですよ!?…どうして…どうして覚えてなかったんですか私!貴重なネタでしたのにー!」

 うん、君はそんな人だよね。突っ込む所そこじゃないっていい加減気付いてよ、もう。


 

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酔っ払い好きでごめんなさい。でも楽しかったんだ…。

[2010.01.17]