H*Fから少女Aへ

 やあ!と元気良く声を掛けてきたキャラに唖然とした。
 いや、だって、その。背中にある銃の大きさがなんか、半端無いんですけど。
 なにそのでっかい銃、生まれて初めて見たんですけど!

 アーサーさんが私とイヴァンさんの隣から立ち去って程無くした頃に、停滞していたパーティチャットのログがぱっと表示された。
 続いてイヴァンさんがそのログに答えて文字が流れる。私もその後に続く。
 ダンジョンがあるフィールドに現地集合する、と言うそのログは全体チャットのログに少しずつのみ込まれていったけれど、場所は覚えたので気にはしなかった。
 でもその場所は名前だけしか知らなくて、実際に行った事のあるフィールドじゃあなかった。Lv50のダンジョンなんだから、そのLvに達していない私が行った事が無いのは至極当然の事だ。
 今回はイヴァンさんが先導してくれるらしく、アクティブの敵に怯えずに済んだ。アーサーさんはその場所に行った事があるみたいで先にテレポートしていたみたい。
 死なないようにフィールドを走ってイヴァンさんの後を必死に着いていき、進んでいく毎に変わる景色に視点をぐるぐる回す。
 緑がいっぱいだったフィールドから次第に黄銅色の土色が混ざってきて、更に赤黒くグラフィックが変わる。
 火山をイメージさせるその色は如何にもこの先強い敵が居ますよ、と言う警告に近かった。この辺りは全く知らない場所だ。
 アクティブの敵に近付かないようになるべく広くて敵の居ない場所を走っていると、また新しいパーティチャットのログが表示された。

「アルと合流するけど一緒に髭がついてくるみたいだ」
「フランシス君が?じゃあ壁の心配はいらないね〜」
「そうなんですか?」
「うんー。フランシス君はハイナイトだからね」

 そう言ってイヴァンさんはまた別のフィールドにワープしていった。
 マップを見る限り、このフィールドにダンジョンの入り口があるようだ。
 私も続いてフィールド移動をして画面が切り替わる。イヴァンさんは私が移動してくるのをきちんと待っててくれて、やっぱり初対面の時のあの恐怖感は気の所為だったんだと思った。
 敵が居ない方へ誘導してくれたり、私に攻撃が当たりそうな敵が居たら直ぐに片付けてくれる。そのダメージが一瞬表示おかしいんじゃないかと思う位凄まじいものだったのは、びっくりしたけど。
 一体どうやったらあんなダメージ叩き出せるんだろう。ステータスの振りと装備だけなのに通常攻撃が軽く四桁行きそうって…びっくりした。私まだ三桁半ばか後半くらいなのに。
 クリティカルがどれ位の威力を持つのか興味があるけれど、それを見る前に目的地に辿りついてしまったのでダンジョンまでお預けになってしまった。

さんって復活地点ここじゃないよね?」
「あ、はい。変えた方が良いですか?」
「もうそろそろLv50だし、丁度良いから変えてくるといいよ〜」
「了解です」

 復活地点、と言うのはその名の通り、自分のキャラが戦闘不能になった後に戻る場所だ。
 その場所に指定できるのは街かNPC(中の人が居ないノンプレイヤーキャラだ)が集まっているエリアの入り口だけだ。
 エリアはフィールドや街を一括りにした場所の事を言って、さっき通ってきた緑がいっぱいあったエリアから土色のエリア、この赤黒いフィールドのエリア、などと風景によって変わっていく。
 ほぼ全てのエリアには街か入り口、どちらかが必ず存在していて、私達が居た街は緑が多かったエリアの街だ。ちなみに土色のエリアは入り口があって街が無い。
 この火山のエリアの街は前に菊さんとルートヴィッヒさんに聞いた通り、エリアの中心に存在していて、街を中心に狩り場が広がっている。
 今居るフィールドからもその街に直行する事が可能で、マップを見ればダンジョンの入り口よりも南に位置しているようだった。
 私はイヴァンさんの言う事に従ってその街の入り口を目指す。途中アクティブの敵が居て焦ったけれど、この辺りの敵はLvも低く、私のLvでも何とか倒せる強さみたいだった。
 それでも多数の敵に囲まれると簡単に死んでしまうので深入りはせずにノンアクティブの敵が居る方へ走りつつ街を目指す。

 【アルフレッドがパーティに参加しました】

 漸く街の入り口が見えて画面が切り替わった途端、そんなシステムログが表示された。
 アーサーさんが言っていた「アル」さんと言うのはこの人の事だろう。簡易ステータスには四次職のガンスリンガーの小さなアイコンが付いていて、Lvが…、なんと、57だった。
 今までに見た事がないLvの高さで画面の外でふわぁあ、と驚嘆の声が漏れる。だって、57って。
 現在このゲームのLvの上限が60だから、Lv57はもうすぐカンスト(上限Lvに達する事)になるLvだ。でも公式アップデートの告知でそろそろLvの上限が上がるとか言ってたなあ。
 でも57まで上げるのは大変だ。私の今のLv、48でも結構上がり難くなっているし、Lv50を越えたら更に上がり難くなると聞いたし。
 それなのにLv57かあ。どれだけ長い時間プレイしてるんだろう、この人。

「やあ!ヒーローの登場なんだぞ!」
「こんにちわ、アルフレッド君〜。フランシス君は?」
「髭は今呼んでる。ちょっと待っとけ」
「別に彼は居ても居なくても変わりないんだけどねー。っと、新顔が居るんだぞ!初めまして!」
「あ、どうも。初めましてです」

 次々とログが流れてどう返事をしていいのか困っていると、アルフレッドさんが話しかけてくれた。私は慌てて挨拶をすると、顔文字を交えてアルフレッドさんがまた返事を返してくれる。
 この人達はよく一緒に集まっているのだろうか。会話もスムーズで端から見ても仲良しみたいだった。アルフレッドさんが「フランシス」さんに対して何気に酷い事を言っている気がするけど、他の二人が何も言わないので私も敢えて突っ込まないようにしておく。
 もうアルフレッドさんはアーサーさんと一緒にダンジョンの入り口で待機しているらしく、まだ復活地点を変更してなかった私は急いで目的地に走った。
 復活地点を変えてくれるNPCを見つけて話しかけると、直ぐに効果音と共に復活地点が変更される。そしてバッグを開いてアイテムの確認。
 何を持っていけばいいのか分からないのでとりあえずエーテルと殴り魔用の武器、回復用の杖だけある事を確かめる。
 補助アイテムも少し持って行った方が安心かと思って倉庫(アイテムやお金を預けれる場所)に置いてあったアイテムを数種類取りだした。
 でもあまり多く持って行き過ぎるとバッグを圧迫して敵が落とすアイテムが拾えなくなるので空きは程々に確保しておく。
 再度アイテムの確認をして準備が出来てフィールドに戻ろうとしたら、また新しいシステムログが表示された。

 【フランシスがパーティに参加しました】

 今度はイヴァンさんが言っていたハイナイトの方がパーティに参加した。ハイナイトはルートヴィッヒさんと同じ前衛職だけど、ルートヴィッヒさんが重視していた盾よりも剣を重視する職業だ。
 フランシスさんのLvは44なのでどうして三次職であるハイナイトなんだろう、と言うささやかな疑問は解決した。いやあ、イヴァンさんが壁役はこの人が居るから心配無いって言ったからてっきりLv50を超えた四次職の人なのかと思って…。
 実際には私よりLv低かったんだけども、前衛職だし私よりも防御力はあるだろう。ハイナイトは将来盾を持たない職業になる為、防御面ではルートヴィッヒさんのクルセイダーに劣る。けど防御力を上げるスキルだとか、攻撃力が上がるスキルだとかを覚えるので問題は無い筈だ。

「Bonjour、女の子が居ると聞いてやってきたお兄さんだよー」
「はぁ…」
ーフランシスの事はただの壁だと思っていいんだぞ」
「あ、アルフレッドひどい」

 フランシスさんも会話に加わって、いよいよパーティチャットが騒がしくなる。それよりもフランシスさんが最初に言った言葉がちょっと気になった。ぼ、ぼんじょー…?
 あ、もしかしてフランス語かな?ボンジュール、こんにちはって意味。外国語には疎いので何を意味するのか分からなかったんだけど、少し時間を開けて読み返してみると案外楽に訳せた。
 学校では英語も酷い成績だったからなあ、私。もう日本語だけで良いじゃないって思ったし。どうせ海外行かないんだし、母国語さえ完璧に理解する事が出来る人が減ってきている今、外国語覚えてどうしろと!…あ、話ずれた。
 フランシスさんは私と同じマップに居るらしく、パーティメンバーのアイコンが簡易マップに表示されていた。会いに行こうか迷ったけれど、どうせダンジョンの入り口で合流するんだから良いか、と早めに街を出る。
 このエリアは街もフィールドも薄暗くて、マップを切り替えても視界があまり良くなかった。
 行きと同じようにノンアクティブの敵が居る方へ走りつつダンジョンの入り口を目指す。なんの特徴も無い平原が続いているフィールドなのでマップを片手に見ていないといつの間にか見当違いな場所に行ってしまいそうだ。
 なんとかパーティメンバーのアイコンが集まっている場所に辿りついて、周りを見渡した。ここのダンジョンの入り口は火山の様で、溶岩と共に古い遺跡が山肌に隠れて表示されていた。

「おまたせしました…」
「まだフランシス君が来てないからそんなに急がなくても大丈夫だよー」
「むしろ髭なんか放って先に行きたいけどな」
「…なんかお兄さんに対しての風当たり凄いんだけど…」
「HAHAHA!気の所為じゃないかい!」

 フランシスさんが明らかにしょんぼりとした口調で発言するけれど、アルフレッドさんは全く気にしてない様子だった。むしろ追い打ちを掛けてる気がする…。
 反応に困って苦笑気味に笑いながらアルフレッドさんに近付く。チャットでは会話したけれど、キャラのグラフィックを見ていなかったから気になったのだ。
 アルフレッドさんの職業はガンナーなので装備もそれほどごつい物では無く、魔法職みたいに軽装だった。
 カウボーイハットに膝下位まであるウェスタンジャケット、昔の西部劇に出てきそうな装備が似合っていて格好良かった。けど、その背中にある鉄の塊が異様過ぎて私はぽかん、と口を開けて呆けてしまった。

 そして冒頭の話に戻る、と言う訳だ。アルフレッドさんがどうかしたのかい、と首を傾げるエモをしながら聞いてくるけども、私がその問いに答えるのはもう少し後だった。
 開いた口が塞がらない。恐る恐る装備を覗かせてもらうと、予想通り、イヴァンさんのレンチと同じ文字色をした銃だった。レア中のレア装備、拝むのは本日二回目。
 菊さんと言い、イヴァンさんと言い、アルフレッドさんと言い、最近凄い装備を持っている人に会い過ぎじゃないんだろうか。
 イヴァンさんとアルフレッドさんは知り合いだろうから、二人が同じ種類のレア装備を持っていてもそれほどおかしくは無いけれど。でもそれでも、この人達は並々ならぬ努力をしてこのレア装備を手に入れたんだろう。
 …ああ。どうやら私は凄い人達と知り合ってしまったのかもしれません。

(この人達、絶対廃人だ)

 文字は打たずに心の中でそう呟いて、私は空が見える窓の方へ視線を向けた。

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毎日ログインしてる夢主ちゃんも十分廃人ですけどね。

[2009.12.16]