9
「なんか違和感ある名前だな」
「そりゃあ東洋の子だしね。ファミリーネームが先になるみたいだし」
「じゃあ…・…か?」
「そっちの方が違和感ないねー」
私を置いて話を進めないでくださいそこの三人。
と言うより、さっき私の名前をずばりと当てた四人目の人が早くも空気になっている気が…。
私の心を読んだのか読んでいないのか(流石に後者を希望する…神様みたいなのが増えるのは嫌だな)、真ん中の眼鏡の人が四人目の人に向かって親指を立てていた。
良かった、空気にはなっていなかったみたいだ(それはそれで酷い気がしないでもない)。
「それで名前が分かったから…えーっと、ミス・、はあんな所に居たの?ここの生徒じゃないよね?」
「え?…はあ。ここ、学校…なんですか?」
「ああ。ホグワーツって言う学校だぜ」
眼鏡の人から引き継いで、黒髪の人が頷いた。やっぱり、この人達が着ているのはその、ほぐわーつ?とか言う学校の制服だったみたいだ。
学校と言われて改めて部屋の内装を一通り見てみるが、とても学校とは思えない程の豪華さだ。
もしかして西洋の学校って全部こんなの…と言う訳ではないよね、流石に。日本と同じ様なコンクリート造りの建物だよね、きっと。
多分この学校は古い建物か何かを利用しているんだろうな…。こんな人が住んでいそうな空き部屋があるんだし、ホテルとか大きな洋館とかだったりするのだろうか。
はたまた豪勢な城とか…。いやいや、学校に城はちょっと大げさすぎるか。だとしたらやっぱり前者のホテルか洋館かなあ。と言うかそれ以外思い浮かばないや。
「残念。正解はお城だよ、ミス・」
「ふぁ!?…え、ええ?ど、読心術…ッ!?」
まさか神様第二号が現れたのか!?と声がした方向を向くと、そこには柔らかく微笑んだ鳶色の髪を持つ人が居た。
えっと…名前は、さっき眼鏡の人が言ってた…り、りーます?とかそう言う感じだった気が…。
いやいや、問題はそこじゃない。何故私の考えが分かったんだこの人は。もしかして本当に読心術じゃ…。
「顔に出てるからね」
「俺には分かんねえ…」
「リーマスだからさ」
その一言で言われた本人以外が頷く(あ、私も省いて)。名前だけで納得されるのもどうかと…思うんだけど。
彼だから分かる事って言われても、私には理解できない。私は自分ではあまり考えが表に出ないタイプだと思っているし…。
…自分ではそう思っているだけで実際分かる人には分かるのかな。むむう、でも言われた事ないしなあ。
リーマス?さんは眼鏡の人の言葉に褒め言葉として受け取っておくよ、と苦笑した。
そして私の方に顔を向けてにこりと笑い掛ける。…この人の笑い顔はなんだか、ほわわんとして和む気がする。
「で、何故あの場所に居たの?ミス・」
「はえ?え、えーっと…うーん…と…ううん」
「答えによっては忘れてもらわないといけないんだけど」
「え、ええ?…えっと…ええ…と」
半ば脅しに近い何かを感じ取ってしまい、ちょっと背筋がひやりとした。
前言撤回、この人笑顔の裏にとてつもなく怖いなにかを飼っているような気がします。
視線を逸らすと恐ろしい事が待っていそうで目を逸らせません、誰か助けて下さい。
じわり、と額から冷や汗が出始めた時、まあまあとリーマス?さんの肩を叩く勇者が居た。…眼鏡の人だった。
この時どれだけ眼鏡の人が神々しく見えた事やら。魔王の微笑みをいとも簡単に払いのけるなんて…この人侮れない…!
…いや、落ちつけ私、何言っているんだ一体。仮にも初対面の人に向かって魔王などと…暴言じゃないか(でも何処かで否定出来ない自分が居る)。
「ミス・…何考えているのかな?」
「…い、いえ、なにも」
にこりとリーマス?さんがまた眼鏡の人を除けて私に微笑む。
前よりも顔が近くて一瞬身の危険を感じてしまったため、私は慌てて近くにあった誰かの身体を盾にした。
盾になった人は驚いていたようだが、私はそれに気付く事なく目の前の得体の知れない恐怖に怯えていた。
嗚呼、隣に眼鏡の人が居ると言う事は…盾にしたのは黒髪の人か、なんて呑気な事を思っている暇は無かった。
とにかく、私の心は盾(黒髪の人)に餌食になってもらう事でいっぱいだった(ごめんなさい、黒髪の人)。
一先ず落ちついた所で、私は悩んでいた。
どうやって話せばいいのか。どうすればこの拷問みたいな質問責めと興味津々の眼差しから逃れられるのか。
ありのままの真実を話した所で納得してくれるかどうか分からないし、まずこの世界が本の中の出来事である、なんて言えるはずが無い(まあ私は知らないのだが)。
それに私だって理解出来ていない所が多々あるし…神様に説明してもらってもたぶん分からないと思う。
でもそれではこの拷問から逃れる事は出来ない。逃れるにはやっぱり話さなければいけない…、その延々と続く無限ループに頭を抱える。
さっきリーマス?さんが言っていた「忘れてもらわないといけない」と言う言葉も気になってしまい、良い答えが見つかりそうになかった。
これはもう、いっそ記憶喪失にしてしまえば良いんじゃないか?と思い始めてしまうが、さっき自分が日本から来たと言ってしまったし、名前も覚えているのでこの案は早々に廃止された。
ならやっぱりありのままの出来事を話すしか…。いやでもそれは…(ぶつぶつ)。
「うーん…」
「…とりあえず、校長の所に連れて行ってみる?」
「まあ…俺達じゃあどうする事も出来ないしなあ…」
「…そうだね」
悶々と悩み続けて数分後、気が付けばまた誰かに手を引かれていた。…眼鏡の人だった。
あれ?と周りを見回してみると、そこにはいつか見た延々と続く廊下が広がっていた。
何このデジャヴ。言い訳を考えている内に何があったの!誰か説明して下さい!
微笑みの向こうのセカイ