pure white

 


 

 

人は驚いたとき、声を上げたり何か動作をするのが当たり前なんだと思う。
平常心を保てる人なんて居るのだろうか。
…少なくとも、私は平常心ではいられない。

ゲームで言う石化状態。それを現在味わっております。
誰かなんでも良いから石化の状態異常を治す薬か魔法を掛けてください。
あ、でも魔法ならこの人達が掛けてくれるかな。ちょっと見てみたいかも…。いやいや、そもそも石化した原因はこの人達な訳で…。
…うん、少し落ち着け、私。この世界に来る前から常識からかけ離れた事が沢山あったんだから、これしきの事で驚いちゃいけないはずだ。
たぶん、これからもっと不思議体験をすると思うから(予想出来てしまうところが嫌だな…)。
それよりも、この世界に連れてきた張本人である神様がさっきから一向に喋ってくれないのが気がかりだ。
呼ぼうとしてちょっとごたごたに巻き込まれたりはしたけれど、声は届いている、と思うし…。
…余程機嫌悪くしたのかな。でも…自業自得だよね、たぶん。うん、私は悪くない(はず)。
なんでだろう、もう一度呼んでみようかな…。いや、でも目の前の人達と一緒に喋られると対処出来る自信が無い。
だったらやっぱり放っておくべきか。うん、また人が居ない時にでも呼んでみればいいか。

「おーい」
「固まってるな、こいつ」
「と言うよりもこの子誰?」

一人につんつん、と頬を突かれて目を瞬いた。目の前には興味を宿した瞳が六つあって、私は一歩だけ後ずさりした。
さっきと同じように、沢山の目が私を見ている事にぞわりと鳥肌が立つ。うう、落ちつけ落ちつけ。
とにかく、この場所の情報を聞き出さなければ話にならない。何処なんだろう、ここ(少なくとも日本じゃない事は確かだ)。

「えっと、…すみませんが、ここ何処ですか?」
「え?」

今度は相手の方がぱちぱちと目を瞬かせた。しかも三人揃って(そう言えば四人目の人は何処だろう)。
そして三人で顔を見合って、もう一度私を見る。頭から足先までをゆっくりと。まるで品定めされているかのようだ。
これから何処かに売り飛ばされる、と言う事は多分無いとは思うけれど、その視線が嫌で私は目を床に向けた。

「何処からどう見ても…マグルだよね」
「マグルだよな」

ぼそりと呟かれた言葉に疑問を覚える。だが、何の話なのかも分からないので、相槌は打たずに黙ってそれを聞いていた。
左の人と真ん中の人が互いに喋り合い、ぶつぶつと何かを話す。一番右の人は何かを考えているようで、手を顎に持っていっていた。
良く見れば皆同じ黒い服を着ていて、同じ色のネクタイをしている。胸にはエンブレムも付いていて、ぱっと見は制服の様に思えた(黒い服に違和感を持つけれど)。
そう言えばさっきの部屋の人達も、大半は黒い服にネクタイをしていた気がする。その黒い服を着ていたのは私と似たような子供だけだった気もする。
だとしたらやっぱり制服か何かだろうか。魔法使いと言えば黒い服に黒い三角帽子だと思うし。
それで杖を持って呪文を唱えていれば完璧で…。でも今更ながらのツッコミなんだけど、この人達が魔法使いなのかどうかは分からない。
透明人間(?)になっていたから魔法使いなんだと思い込んでしまったのだけれど…もしかして、この世界ではこれが当たり前なんだろうか?
透明人間より凄い事が出来る人が魔法使いだったりして…。そうだったらどれだけ凄いんだろう、ちょっと気になる。

「まあ話してみないと分かんないんじゃない?…ねえ君」
「ふえ?…え?」
「見た感じは東洋の人みたいだけど、何処から来たの?」
「え?…えっと」

ここは素直に日本と言っておいた方が良いのだろうか。その後にどうやってここに来たのかを問われそうな気がするけれど…。
それ以外の国を答えたとしても、結局同じ事を問われそうな予感がして私は素直に日本、と答えた。
すると問うた一番右の人がほう、と言いにこりと微笑んだ。か、かっこいい。

「日本文化って良いよね。言葉が綺麗で着物とか和の雰囲気が好きだなあ」
「そう、なんですか?」
「まあ…リーマスは僕達より東洋の事好きだからねえ…」
「と言うより、俺達は興味無いだけだろ」
「失敬な」

君よりちょっとだけなら興味あるよ、と真ん中の眼鏡を掛けた人は左の黒髪の人に悪態をついた。
西洋の人を沢山見ている訳では無いのでちゃんとした比較は出来ないけれど、この二人も綺麗な顔立ちをしていて多分(いや確実に)格好良い部類に入る事だろう。彼らの周りがきらきら輝いているように見える…(芸能人みたいに)。
こうして見ていると、自分が別世界に居るみたいだ…(いや、実際そうなんだけど)。
アンティークの家具に囲まれた西洋の雰囲気に格好良い人達。そして…私。
これはどう見ても私は場違いで不釣り合い極まりない。雰囲気的におかしい。
見た目もそうだけど、服装も、体格も綺麗で可愛い、と言う訳でも無いし…普通の、本当にごく普通の一般人なのだ(一度死んでいるみたいだけど)。
そんな一般人が所謂イケメン達に囲まれていると言う状況。…嗚呼、穴があったら入りたいです、凄く。
芸能とか、そう言うのには興味無いけれど、こんな格好良い人達が目の前に居れば黄色い声を上げる女性達に共感しないでもない。
色んな意味で心臓が、大変な事に。うう、こんな時こそ奇数を数えて…2、3、5、8…?

「…で、日本の子がなんでこんな所に?」
「…思いっきり偶数混じってるじゃない…。…え?すみません、聞いてなかったです」
「なんで君は…、えっと名前は?」
「え?…、」
「…?」
「そうそう…。…え?ええ?」

一文字一句間違えずに言われた本名に、私は今度こそ心臓が止まりかけた。
何故知っている!?と声がした方に視線を向けると、黄銅色に染まった紙を持った、四人目の人が立っていた。

 

 

疑問の向こうのセカイ