pure white

 


 

 

目が覚めると、目の前に巨大な扉があった。
否、目が覚めたんじゃない。目を開けたんだ(どっちでもあまり変わらないけれど)。

「…違う違う。問題はそこじゃなくて、」

ここは何処だ。
いやそれも少し考えれば答えに辿りつく筈だ。
神様が言った通りの話だと…、そう、ハリーポッターの世界…に、来た事になる。
けれど私はその物語を知らないし、どんな場所が舞台になるのか、どんな話なのかすら知らない。
クラスメイトやニュースなどの話を思い出せば、確か「魔法」が出てくる話だった筈だ。
だけど知ってる事はそれだけ。後は本当に何も知らない。
だから、ここが何処なのか、この扉がどこに繋がっているのか、知らない。

『開けてみればいいじゃない』
「そりゃ物は試しって言うけど…、…神様、何処に居るの?」
『ここ』
「…」
『冗談だってば』

一々むかつく存在だわ、本当に。
と言うより、神様が居る事に私は少なからず驚いた。水先案内人って言う感じで異世界に飛ばすだけじゃなかったんだ…。
…なんで居るんだろう、と声を掛けようとしたが、そう言えばハマったとか何とか言ってたので、それで一緒に来たのかもしれない。
だったら一人で来れば良かったのに…。何故私を道連れにしたんだ全く(いや気まぐれらしいけど)。

「で、何処?」
『キミの中』
「…、…いま素で鳥肌立ったんですけど」
『酷くない?それ』

いや、だって、私の、中って。体内って、そりゃ、鳥肌も立つと思うんですが。
ぶつぶつと神様は愚痴り始めたけれど、私はまだ背筋がぴんとしたままだった。それだけぞっとしたと言うか、何と言うか(気味悪いって言ったら怒るかなぁ)。
とにかく気を鎮めようと鳥肌が立った腕を擦り、深呼吸をする。神様はその事がよっぽどショックだったのか、更に愚痴をこぼした(五月蠅かった)。

「え、えっと、じゃあ何?神様の声って私にしか聞こえなかったりする?」
『うう…。そうだよ…。ちなみにが思ったことは僕に聞こえるから一々声に出さなくてもよかったり…うう…』
「…そ、そう」

流石に居た堪れなくなったので、私は相槌だけを打つ事にした。
あれ?だったらもしかしてさっきのナントカの狭間?に居た時に神様が姿を見せなかったのは私の中に居たからなのだろうか?
そう心で思うと、神様は否定の言葉を述べた。どうやら違ったらしい。
あの時は姿を隠してたんだとかなんとか。私の心が読めたのはあの時言った通り、勝手に流れ込んでくるからだそうな。
うーん、私の中に居たとした方が説明と言うか納得出来たんだけどな、残念(いや居なかった方が良かったか)。

『それよりもドア開けないの?扉の前で悶々としてると変だよ?』
「…神様の所為だ。…あ、神様、ハリポタハマったんだったらこの扉の向こうとか、この場所とか何処だか知ってるんでしょ?」
『うん。でも教えない』

何で?と聞いたら、答えは簡単に返ってきた。
だってそっちの方が面白いじゃない。そうにっこりと微笑んでいるかのように神様は囁いた。
無性に蹴りたくなったのは言うまでもない(居た堪れなくなった自分が嫌になった!)。

手で押しても開きそうにない重そうな扉に恐る恐る触れてみる。
すると、その扉は見た目とは裏腹に来訪者を歓迎したように重い音を立てながらゆっくりと開いていった。
軽い力で観音開きの片方の扉を押せば、さっきよりも大きな音を立てて開いていく。
うわあ。全然開かないと思ってたのに。思ったより簡単に開いた。これももしかして「魔法」なのかな?

『さあね。ただ単にキミが怪力の持ち主だったとか…』
「それ以上言うと今すぐここから―……はえ?」

突き落とすぞ、と物騒な言葉を発しようとした私の声は、奇声によってそれ以上言葉を発する事が出来なかった(突き落とすと言っても神様の身体は無いんだけど)。
見られていたのだ。複数の…それはもう、何十では表せない位の(下手したら千幾らと言う位の)眼で。
時間が凍りついた。その表現が今のこの空間にとって、相応しい以外の何物でも無い。
それ以外に表現のしようがなかった。本当に、数秒、その場の誰もが(もちろん私も)動けなかった。

「…」
?』

神様が問い掛けてくるけれど、私はその問いには答えなかった(否、答えられなかった)。
そしてゆっくりと、今手を掛けている扉を押し戻す。
パタン、と言うより、ガチャン、と言った音を立てて扉が閉められ、私は数十秒前の元の場所に戻る事が出来た。
そしてたっぷり十秒の時間を掛けて一つ呼吸をして、冷静に今の出来事の感想を述べた。

人、多すぎ(しかもほとんどが子供だった)。

 

 

扉の向こうのセカイ