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「自称が面倒臭いから神様と呼ぶけど…。異世界ってどこ?」
『だから神様だって。…異世界は異世界でしょ?』
「…聞いた私が馬鹿でした」
そうだ、この神様(自称ってやっぱり付けたくなる)はアバウトなんだ。
こんな質問聞いても答えてくれる筈もない。と言うか答えにもなってない。
異世界なんて言葉を簡単に言ってのけるけれど、私には空想の世界の事で現実にあるなんてさっぱり理解出来ない。
神様だって空想の世界の人だと思っていたのに。それがこんなアバウトな人だなんて思わなかった(否、思いたくない)。
それに、神様が存在しているのだとしたら、何故、私の家族を見殺しにした?
私さえも死んでしまったと言うのに。神様なら異世界に誘う事より人を殺さないでほしい。
それが神様じゃないの?人を救う事が、神様の役目じゃないの?
『それは違うよ』
「…なんで」
『それは決まっている事だから。例外はあるけど、僕等は生死を変えちゃいけないから。死んだ後は適当にしても良いけど』
「…神様って万能じゃないんだね」
『そりゃね。神にだってしちゃいけない事もあるし、出来ない事も沢山あるよ。人が想像しているよりずっと劣ってる』
そう言って神様はふう、と息を整えた。
人は全てを超越し、全てを統べるものを神と呼ぶ。けれど、それはやっぱり想像の中の事で、実際にはずっと小さい存在。
人よりも少しだけ特殊な力を持っていて、少しだけ変なだけの人、それが…神様なのかもしれない。
心の中でそう思うと、神様は変は余計、と呟いた。
「…なんか重い」
『体重が?』
「…く、う、き、が。…殴りたい」
『もっと穏やかにしないとモテないよ?』
「うう…」
全部神様の所為なのに、と悪態を吐いても、神様は何も言わずにただ笑うだけだった。
顔が見れないのが憎たらしい。見えたとしても凄く良い(それはもう晴れやかに意気揚々とした)笑顔なのだろう。想像したら更にむかついた。
…とりあえず話題を変えよう。重い話はもう終わり!時間無いんだから用件は早く済ませないといけないんだから!
『話逸らしたの君じゃないの?』
「神様でしょ。で、異世界って簡単に言うけど、具体的にはどんな世界なの?」
『うーん、どんなって言ってもなあ…。簡単に言うと平行世界だよ』
「…ぶっ飛んでる…」
小説とか、物語とか、所謂そう言う話を聞かされているみたいだ。
平行世界…、つまり、パラレルワールド。私が住んでいた世界と似たような世界のこと。
別の世界でもう一人の自分が居たり居なかったりする世界だって本に書いてた気がする。
…その異世界に、連れていくと言う訳?
あれ?それってもしかしたら、もう一人の私に出会ってしまったりしてしまうんじゃないだろうか。うわあ、なんか嫌だな。
『あ、そう言うのとはまたちょっと違うかな。なんて言うか…物語の世界に入っちゃう感じ』
「…はあ?」
『おとぎ話とか、そう言う世界に入っちゃうって事』
…ああ、なんて言うか、ほら、あれだ、えーと…。…そう、トリップ?だっけ?
ネットの小説とかでやってる一部の女の子には人気って言う、ああ言う系ですか、もしかして。
…でも私は別に興味無いしなあ…。本とか小説だって、どっちかって言うと小難しい硬い文章を読んだりするのが好きだし。
大人に交じって分厚い文学小説を読んでたりするし(でもそこまで読書が好きな訳じゃない)。
『話脱線してるよー』
「う…。そ、それよりも、物語ってどんなの?おとぎ話なの?」
『違うよ。ほら、有名な児童書、ハリポタの世界』
「…あー…。なんか聞いた事あるような」
確か数年前にシリーズの何冊目かが日本で発売された児童書の名前。
正式名称はハリーポッターとかそんな感じの名前だった気がする…。
同じクラスに居た子には絶対読むべきだよ!と凄い形相で迫られた本の一つだった気もする(毎回ハマった本を読めと言ってくる子だった)。
けれど、児童書と言う事もあってか、私は手はおろか目さえ向けていなかった。それほど興味無かった(と言うと失礼か)。
それよりも新しい参考書とかに目が向いてしまっていた為、世間では有名な本でも、私にはさっぱりと言っていいほど縁遠い代物だった。
興味があるものにはとことん目が行き、それ以外には全く目がいかない。性格だとしても流石にこれは酷過ぎる…のかな。
『ま、その世界にご招待ってところ』
「どんな世界なのかも知らない私が?」
『うん。だってその方が面白いじゃない』
…何処が?と呟こうとしたけれど、それ以上言うとまた話が脱線しそうだったので止めておいた。
流石にこれ以上無駄な時間を費やす訳にはいかない。と言うより、タイムリミットはいつなんだろう。もう数分は経ってる気がするんだけど。
『あ、ほんとだ。じゃあそろそろ行こうか』
「じゃあ最後。なんでその、ハリポタ?の世界なの?別に他のおとぎ話とか物語とかあったんじゃ…」
『それは僕がハマったから。それじゃ、行ってらっしゃい。』
神様って本読むんだ…。と言うか最後の最後で名前呼ばれた…。
彩虹の向こうのセカイ