pure white

 


 

 

その世界で私はまどろんでいた。
意識が曖昧で、寝ているのか起きているのかもはっきりしない。
けれど、うっすらと目を開けていて、その細い視界には様々な色が混ざり合った表現し難い色が映っていた。
ふわふわと身体が浮いていて、まるで雲の上に居るかの様に居心地が良い。
このままゆっくりと思考を闇の中へと持って行きたかったのだが、何故か思考を飛ばす事が出来ないでいた。
眠たいのに、眠たくない。寝ているのに、起きている。そんな矛盾していて曖昧な感覚。
その世界に私は一人、漂っていた。

『やあ』

ふわふわと心地良い気分でまどろんでいた筈なのに、ぽつり、と私の耳に人の声が届いた。
気持ち良かったのに、と少し悪態を付きながらも目を開けてみると、そこにはさっきの何ら変わりない、良く分からない色の世界があるだけだった。
…気の所為かな?
確かに人の声が聞こえたような気がしたんだけれど。そう首を振っても、人の姿は私の目に映らない。
様々な色の混ざり合った世界は、平衡感覚が全く無く、何処が地面なのか、何処が天井なのか、壁さえあるのかも分からない。
ただ色んな色がぶちまけられているだけだ。それなのに、お互い混同するように滲んで混ざり合っている訳では無いし、鈍色の様な汚い色でもない。
淡いパステルカラーの様な感じの色もあるし、彩度の高い刺激色もある。鮮やかで、それでいてやわらかい色合い。
この世界が何処なのか、なんと言う名前なのか、それは知らないけれど、それでも良い様な気がした。

『良くない良くない。ここは空間の狭間って言う場所だよ』

嗚呼、母さん、父さん、やっぱり何か幻聴が聞こえるようです。
私はいつの間にかおかしな電波を受信してしまう子になってしまったようです。
頭を押さえて眉間に皺を寄せてみる。…頭痛がするのはこの幻聴の所為だ、きっと。

『幻聴じゃないんだけど。ちゃんと居るよ』
「…どこに?」

嗚呼、久しぶりに会話をするのに、よりにもよって相手が素性も分からない人物(透明人間?それ以前に人なのかな)だとは。
しかも良く分からない場所に居るし。ここ何処だ。いや別に何処でも良いんだけど。
とりあえず声を掛けてきた主を探すべく数回瞬きするが、やはりさっきと同じように人の姿は何処にも無い。
私がきょろきょろと視線を漂わせていると、くすくすと笑う声が直ぐ近くで聞こえてきた。
けれど、姿は無い。

「…居ないじゃない」
『居ないけど、存在はしてるよ』
「…意味が分からない…」

つまり、簡単に言うと、姿は見えないけれど居るって事になる。
ではやっぱり透明人間なのか、と言うと、声の主は違うと否定の言葉を発した。
理解出来ない。不審者には近付かない方が良いと言うが、正しくこの人は不審者だ。断言出来る。

『ひどい』
「じゃあ姿を見せればいいのに」
『見せても不審者には変わりないんでしょ?』
「うん」

そこは勿論イエスと答えておいた。だって誰かも分からないし。


「それで、私はどうしてここに居るの?」

不審者(名前も名称も知らないし、透明人間でも無いし、人とはかけ離れてるような感じなのでこう呼んでみる)の事は放って置いて、聞いてみたかった事を聞いてみる。
答えが返ってくるかどうかは分からないけれど、聞く人がこの人しか居ないからだ(見えないけれど)。
気が付いたらここに居たんだし、不審者なら何か知ってそうな感じがするし(本当かどうかは分からないけれど、この世界の事を知っているようだし、私の事も知ってるんじゃないかなあ)。
本当は答えが返ってこない方を願っているのだが。返ってきたら不審者プラス、ストーカーの名前が追加されると思う。

『…そう言われると答え難い…。知ってるんだけど』
「では今からストーカーと呼びます」
『ひどい』
「じゃあ盗撮犯」

どっちも犯罪者じゃないか、とぶつぶつストーカー(不審者)は小さく呟いた。
だって私の事を知っている、と言う事はつまり私の事をずっと見ていたと言う事で。
それはつまりストーカーか盗撮犯と言う訳で。こんな知り合い、私には居ないし、近所にも住んでいない。
何処で私の事を知ったのかは知らないけれど、犯罪者なのは確かだ。

『違うって』
「じゃあどうして知ってるの?」
『えー…神様だから?』


犯罪者と思ったらどうやらキチガイだったようだ(流石にこれは酷いかも知れないけれど、それがぴったり当てはまる)。

 

 

現実の向こうのセカイ