Attention!
米英のえろすはとってもぬるいです。全体的にギルが可哀想です。
何故かほんの一瞬だけ西ロマ要素有り。
生徒会長さんと悪友。
小鳥のように格好良い俺様の名前はギルベルト=バイルシュミット。
名前も格好良い俺様は、今日も授業をサボってテラスで昼寝中だ!なんたって俺様は元から頭が良いからな、勉強なんかしなくて良いんだぜ!
「あー今日も太陽が眩しいぜー」
「トーニョ、それ答え一つずれてるよ」
「え?あ、ほんまや。もー、言うならもっとはよ言ってやー」
「お兄さんだって暇じゃないんだから、それ位分かろうよ」
「えー」
隣でフランシスとアントーニョが仲良く勉強中だけど(フランシスは生徒会の仕事みたいだが)、俺様はのんびり空を見上げて目を閉じた。
そろそろ春の便りが来る季節の所為か、日差しがきつくて目が痛い。まあ、夏よりは随分マシだけどな!昼寝が心地良いのも春だからだろう。ケセセ、今度はルッツやフェリちゃんも呼んで一緒にシエスタするのも良いかもしれねえな!
昼寝楽し過ぎるぜー、と笑って両手足を伸ばす。するとがつり、と足がアントーニョにぶつかってしまい、彼の驚いた声と鈍い音がテラスに響き渡った。
あ、まずい。そう思った時にはもう遅くて、伸ばした足がアントーニョによって拘束される。恐る恐る身体を起こしてみると、顔を俯かせて不穏なオーラを漂わせるアントーニョが…。
「あ、アントーニョ?悪い、当たっ…」
「ギールーちゃーん、謝ってすむ事ちゃうで?これ何か分かる?え?言ってみ?」
「…の、ノート、です。アントーニョのレポート用の…」
「そうやでー。で、ギルちゃんの所為でこないな事になってしもうたんやけど…覚悟は出来てるやろな?」
ずい、と片手で示されたのは、先程から睨み合いをしていたノートで、開いているページにはインクがぶちまけられて何が書いてあるか分からない程、真っ黒になってしまっていた。
ここで一つ疑問が浮かんでくるんだが、今のアントーニョにその疑問をぶつけたとしても効果は無いんだろう。完璧に怒っているし。
ちなみに俺様が疑問に思ったのは、どうしてインクがそこにあるのか、だ。ボールペンとかシャープペンシルとか、もっと使いやすいのあるだろうに…お前一体いつの時代の使ってるんだよ。俺様だって万年筆使ってるんだぜ?インクとか使ってたら乾くの遅いだろ…。
ぼそりと一応呟いてみたけど、やっぱりアントーニョには聞こえていなかったようで、にこにこと貼り付けた笑顔で怒っていた。その笑顔が怖いです、アントーニョさん。
け、けど俺様だって負けちゃいねえぞ!なんたって俺様は小鳥のように格好良いプロイセン様だからな!時代は大分前だけど、坊ちゃんとか殴ってた時だってあるんだから、喧嘩は他の奴らと比べると強いんだぜ!
ケセセ、とアントーニョに宣戦布告がてら笑い返してやると、奴も目をぱちぱちさせてにやりと笑う。流石元太陽の沈まない国、喧嘩を吹っ掛けられても物怖じしちゃいねえ。
「ギルちゃんがそー言う態度するんやったら、親分本気出さなあかんなあ」
「えー止めようよトーニョ、ギルだってわざと当てたんじゃないんだからさ」
「フランシス、お前は口出しすんじゃねえ。これは俺様とアントーニョの問題だからな」
「…お兄さんはギルの為に言ってるんだけどなあ…。知らないよ、どうなっても」
「望む所だぜ!ケセセセセ!」
数分後、そこには無情にも太陽の国に沈められる誇り高き黒鷲の姿が…って、俺は決して負けた訳じゃねえぜ!ほ、ほら、最近ルッツの勉強が忙しくて筋トレとか手伝ってない所為か身体が鈍ってるんだよ、うん、だからこれはただの準備運動…ってぎゃああ、トーニョやめ、それ足折れる!曲がる方向じゃねえぞ!
ギブアップ、とばかりに手で床を叩く。手が痛くなる位びったんびったんしてるのに、アントーニョは止めてくれない。目が据わってやがる、これは本当にやばいかもしれねえ、俺様大ピンチ。
ちらりと横でフランシスを窺い、助け船を出してくれとアイコンタクトしてみる。けどフランシスも諦めた様子で自分の仕事であるペーパーを凝視してこっちを向く事はなかった。
え、ちょっと、本当に俺様やばくね?やっぱりフランシスの忠告を聞いとくべきだった?いやでも喧嘩吹っ掛けたのはこっちだから引く訳にはいかねえだろ。いやでも…病院送りになるのは勘弁…ってトーニョ!だからそっちマジで曲がらねえよ!
「折れる!ほんとに折れる!」
「いややわー、ギルちゃんこれ位どうってこと無いやろー?ちょっとぶらーんとなるだけやって」
「ぎゃああああ!フランシス!!こいつどうにかしろよ!」
「えー、口出しするなって言ったのギルじゃん。お兄さんしーらなーい」
「は、薄情者おおおおお!」
「あれだけの死線生き抜いたギルちゃんやったら大丈夫やって、ほら、えい」
軋む鈍い音と共に断末魔が轟いたのは、もちろん言うまでも無い。
今日の俺様はどうやら運が悪いみたいだ。朝から寝坊してルッツと通学出来なかったし、昼前に小鳥が行方不明になって見つかったと思えば調理室で生贄にされかけてたし、昼はこの通り、アントーニョのノートを駄目にしてしまった。
その代償はアントーニョの代わりにレポートを書き写す事で、数日前に買った新しいノート(小鳥仕様で格好良い!)が一冊彼の手に渡ってしまった。弁償とは言え、俺の小鳥ノートが手元から離れて行くのは悲しいぜ…今日の日記はあんまり書きたくねえな…ぐすん。
ううう、と唸ってノートに汚れていない部分の文章を書き写していく。わざと崩したスペイン語で書くのは、俺様が書いたとばれないようにする為だ。うん、完璧。
朝はのんびりサボれてたのに、昼休みはこの作業で全部潰れてしまい、書き写しが終わったのは午後の授業が終わる少し前だった。
ノートの半分以上が消費されていたので、その分全てを書き写し、更に今日の分のレポートも新たに書かないといけないなんて、きっつい仕事だぜ全く。
愛用の万年筆をポケットの中に放り込んで再び床に寝転がると、アントーニョがトマトを齧りながら俺の顔を覗きこんでにこりと笑った。
「ギルちゃんお疲れー。トマト食う?」
「いらねー…むしろビール飲みてえ」
「あ、ワインならあるよー」
トマトを差し出すアントーニョと、何故か学園にワインを持ち込んでいるフランシスにケセセ、と笑って申し出を断る。トマトもワインも良いけど、やっぱり今はビールが飲みたいぜー。仕事終わりの一杯はこれに限るしな!フランシスはワインでしょーと言っていたけど、俺様は断然ビールだな!
まあ、どうせ学園内に酒なんて売ってる筈も無いので(フランシスのワインは別として)、寮に帰って飲むしかないんだけどな…つか一応学生とは言え飲酒していいのか悩むよなあ。年齢的に問題は無いんだけどさ。
明らかにフランシスとか学生って風貌じゃあ無いんだけど、そこは敢えてスルーだ。何故ならこの世界W学園と言うのは国が通う学校だから。ついでに言うと俺様はそんな深い所まで一々気にしない性格だからだ!
「んじゃ、そろそろ授業終わるし帰るとするか」
「あ、ちょっと待って。お兄さん生徒会室寄らないと。坊ちゃんに書類届けなきゃ」
「ええ…あの眉毛んとこ行くん?俺嫌やわぁ」
「そんな事言わないのー、どうせ直ぐに終わるから、ほらほら」
ひらひらと茶封筒を振るフランシスが、明らかに嫌悪感を示したアントーニョの背中を叩く。本当にアントーニョはあの生徒会長さんの事が嫌いだよなあ。
俺は別にそれ程嫌いじゃあ無いんだけどな、なんか同じような空気を纏っているって言うか…いや、気の所為かもしれねえけど。
テラスから廊下に戻り、未だに授業をしている教室を避けて通りながら、俺達は他愛の無い会話をし合う。昨日はフェリちゃんのお兄様がアントーニョに襲われかけただとか(何してんだよこいつ…子分だからってそれはしちゃ駄目だろ)、フランシスはナンパ失敗が大台に乗りそうになっているだとか(本当によく飽きないよなあ)、昨日はルッツが久しぶりにクーヘンを焼いてくれて美味かったとか(やっぱりルッツが作るクーヘンは最高にうめえ!)、話のネタは生徒会室に着くまで消化しきれない程あった。
会話の最中に今日の授業が終わるチャイムが鳴ったけれど、その音が鳴った時には既に生徒会室の近くまで来ていたので俺達は急ぐ事無く歩を進めた。教室から出てくる生徒が多いと直ぐに逸れちまうからな、たまに急がねえといけないんだよ。
下の階が騒がしくなり始め、窓の外からは下校していく生徒達がちらちらと見え始める。向かう先は寝泊まりしている寮だろう。俺様も早く帰ってビールが飲みたいぜ。
「あーあ、なんで生徒会室ってこんな遠いねん…もっと近くでもええんちゃうん?」
「まあ仕方ないよ、一応下は職員室だから仕事する時は利便性良いんだよ。移動は面倒だけど…」
「テラスからだと逆方向だしなー」
そう言って俺は二人より一歩先に足を踏み出す。アントーニョは逆に歩みを止めて、行きたくなさそうに眉間に皺を寄せていた。
フランシスが呆れながらそれを後ろから押して、俺とフランシスは見合って苦笑。嫌なら待っとけば良いのにアントーニョがそれをしないのは俺達と一緒に帰りたいから…、なんてな。ぶっちゃけ待つのが嫌なだけっぽい気がするぜ。俺達と帰るよりフェリちゃん達と帰る方が良いらしいし。もっと親友労われよって言ったら、誰が親友やねんって額をぶつけられた。ひでえ。
ぷー、と頬を膨らませて怒った俺は、彼らより先に生徒会室のドアを開けた。あ、ノックした方が良かったかなあ、生徒会長はそう言う事に五月蠅いし…、…ん?
「っ、ん…あ、あ、るぅ」
「はいはい。って…あ」
「え」
…。……。ん?あれ?俺部屋間違えたかな?気の所為か?いやでも部屋のプレートには確かに生徒会室って…書いて…。あれ?
ぴたりと目が合った眼鏡越しの奴の目は明らかに見開いていて、びっくりした様子だった。俺も同じように目を見開いて、ドアを開けたままの姿勢で固まってしまっている。
アホ毛がゆるりと動くそいつは確か、北米クラスのアルフレッドだ。そしてその、アルフレッドに抱きついてだらしなく足を開いてるのは…この生徒会室の主…だ、よな?いつもと全然違う(いや酔っぱらった時はあんな感じか?)雰囲気に、俺様の頭は全くと言っていいほど処理が追い付いていなかった。え、なにこいつら。ここ生徒会室だよな?こんな所で何してんだ。
アルフレッドが微動だにしない事に気が付いて、生徒会長さんも首を傾げながら俺の方の、部屋の出入り口へと視線を向ける。あ、固まった。
部屋の時間が一瞬止まったんじゃないかと思う位、俺達はぴくりとも動かない。気まずいってもんじゃねえぞ、これ。どうすんだよ、俺様どうしたらいいんだよ。
「おーいギルちゃん、そんな入り口で何してんの?」
「坊ちゃん居たー?…って、あら?」
「あ、こら、お前等っ」
凍り付いた時間の中、ぱっと現れたのは後ろから追いついたアントーニョとフランシスだった。
俺は咄嗟に制止の言葉を発したが、一足遅かったようで、ばっちりと二人も部屋の中の状況を把握してしまったらしい。表情が固まったかと思えば、次の瞬間には何故かによによと口を吊り上げる二人に、俺様はどう反応して良いか正直困っていた。
なあ、俺様どうするべき?大人しくドアを閉めた方がいいのか?つーかそうしたいんだけどなんかこいつら退いてくれねえんだけど。その立ち位置だとドア閉められねえよ!
「お二人さんこんな所でお熱いねぇ」
「ほんま何してんって思うわぁ〜、我慢出来ひんくてもこんなとこでしちゃあかんでー?」
「…ぶー、分かってるんだったらさっさとドア閉めてくれよ!アーサーが爆発しちゃうんだぞ!」
「はいはい。坊ちゃん、書類ここに置いとくから終わったらちゃんと目通しといてよー」
によによ笑うアントーニョとフランシスに、アルフレッドがべー、と舌を出して子供のように怒る。話が通じているのが不思議に思えてきて、俺様は余計にどうして良いのか分からなくなった。なんでこいつら平然としてるんだよ、普通驚かねえ?だって、アーサーとアルフレッドって仲悪かっただろ?元兄弟だったんだろ?なんでそんな奴等がこんな、恋人同士でやる事してるんだよ。益々分かんねえ。
フランシスが封筒を入り口の横に立てかけてひらひらと手を振り、アントーニョも俺の手を取って同じように手を振るう。あ、アントーニョはまだ笑ってやがる。さっきまでの不機嫌がまるで嘘のようなすっげえ良い笑顔だ。
結局俺様はずるずるとアントーニョに引き摺られて、そのまま生徒会室を後にした。呆然と立ち尽くしている時にアーサーと目が合ったけど、あいつはあいつで口を開閉させながら顔を赤くしたり青くしたりしていた。…まあ、普通そう言う反応するよな。平常心なこいつらがおかしいよな。うんうん。とりあえずアーサーにはご愁傷さまと後で伝えておこう。
「…で、さ。あいつら、付き合ってんのか?」
「え?ギルちゃん知らんかったん?」
「あれ?気付いてなかったの?」
そんな当たり前の顔して聞き返すなよ。なんで知ってんだよお前等。
あーもう、今日の俺様はほんっとうに運ねえなあ!とっとと帰ってルッツのホットケーキとビールが飲みてえ!
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[2010.02.04]