あおぞらのもとに、

 

かみさま。
神様。ごっど。神話の中のひと。
それが、今、目の前にいる。

「…あー…」

そう理解するだけで、何もかも合点が行くように思えてくる。
人ならなし得ない事でも、神になら安易に出来る事。
神と言ってしまえば、不思議な事が全部、神だから出来る事なんだと、思えてしまう。

「そうかもしれないけど、かみさまってじゅーだいが思ってるほど、凄いひとじゃないよ?」
「そうなのか?まあ天気とかは変えられないみたいだけど」
「うん。変えたように見せることができるひとは居るけど、ぼくは分野がちがうからできないんだ」
「…分野なんてあるのか…」

でも、考えてみれば太陽の神や、戦いの神と言われている神が居るように、神にも分野があると考える事は出来る。
だとしたらは何の分野なんだろう。全然思い浮かばない。
それに、と同じ存在である神はこの世界に沢山居るのに、どうしてはその神達を知らないんだろう。神様達って神様同士で話とかしないのかなあ。

「じゅーだいって面白いかんがえするね。とりあえず前者からこたえるね。ぼくの専門分野はおもに空間をあやつることかな」
「空間?」
「うん。せかいとせかいを繋いだり、たまに時間をこえたりもする。簡単にいうとドアみたいなの」
「どこ○もドア?」
「そうそう、そんなかんじ」

そう言っては何処からともなくカップとティーポッドを文字通り出現させた。
ふよふよと浮いているティーセットを見て、そこだけ無重力になっている気さえする。
まるで魔法だ。それも、神だから出来る事だと言ってしまえば、納得出来てしまう。そこがまた恐ろしいと言うか、なんと言うか。
はティーポッドを自分の一部のように軽々と操り、ティーカップに香り立つ紅茶を注いで自分の前に置いた。

「じゅーだいもいる?」
「いや、さっき飲んだからいいや」
「そっか。ついでにこんな風にものを浮かせるのもぼくの分野のひとつだよ」
「なるほど」

こくりと紅茶を一飲みして、は吐息を吐く。
美味しいね、と呟かれるが、俺は飲んでいないので味なんて分からない。とりあえず相槌だけ打っておいた。
物を浮かせる事が出来る力。…それってもしかして人も浮かせる事が出来るのかなあ。
空とか飛んでみたくなる…いや、そう言えば俺ってユベルと戦った場所に行く時に飛んだ気がする。
あんな感覚なのかなあ。…って、もしかして俺も結構不思議体験してたりするのか。空飛んだり異世界に行ってたり、こうして神様に出会ったりしてるし。

「そうだね。じゅーだいは不思議なちからがあるから、そう言うことに遭遇しやすいのかも」
「それはそれで…楽しいんだけど、疲れるかも」
「たまにはげんじつとーひするのもいいかもね」
「…それもちょっと」

どうかと思う。


「ほかは?」
「え?」
「ききたいこと。他にはない?」

そう言われて少し考える。
の事は何となく分かった。その他…。
この世界の事も聞きたいと思ったけれど、神様が住んでいる所、って思うと何でもありに思えてくるから困る。

「そんなことないんだけどなあ。じゃあ次はこのせかいについて話そうか」
「ん…。この世界には…以外の人?神様?って居ないのか?」
「いないよ」

即答とも言えるその言葉に、俺は少し目を見開いた。
そんなに簡単に、言える事だろうか。この世界にたった一人しか居ないと言う事を。
…寂しくないのだろうか。

「うーん…でも、ぼくたちにとってはこれが普通だから、さびしいとかそう言うのはないかな」
「そう、なのか…」
「でも今はたのしいよ。じゅーだいがいるからね」

はにこりと笑うと、弄んでいたカップを手に取り紅茶を一口飲んだ。
こう、直球にずばっと言われると、なんだか気恥しくなる。…何か照れるなあ。
仄かに頬が熱くなるのを感じて、それを隠すように両手で頬杖をつく。
けれど、にはそれもお見通しのようで、にこにこと笑ったまま同じように両手で頬杖をつかれた。

「うー…」
「えへへ。でも、蝶とかとりとか、そう言うちいさなどうぶつなら居るかな」

そう言われてみれば、ここに来る前に見た花園に蝶が飛んでいた気がする。
人が居なくても、生き物は居るんだなあ。やっぱりそう言う小さな生き物たちが居ないと違和感を感じてしまう。
生きているのに死んでいる。そんな風に思えてしまうから。

「うん、そうだね。でもじゅーだい、花も草も生きてるんだよ」
「あ…そっか。だよなあ…。でもなんか…生物じゃなくて植物って思ってるから変な気分だ」
「定義のもんだいだもんね。花たちは風景に取りこまれてしまうと生きてるきがしなくなるから」
「そうそう、そんな感じ」

所々難しい単語を話されて一瞬理解に苦しむけれど(馬鹿って言うなよ)、何となく言ってる事は分かる。
簡単に言うと風景画の様な感じ。草原があって、周りに花があれば、それは風景だ。
景色、と言うだけで、そこに生き物が居るとは感じられない。絵、ならではの景色。
でも、そこに蝶や鳥、蟻などが書かれると、途端にリアルに感じられる。動物達が活動している様を見ると生きている、と感じられる。
草原に花だけでは非現実的だ。そこには花の香りに誘われて蝶や蜂が来る筈なのに、そんな小さなもの達が居ないと違和感を感じてしまう。
…まあ、小さすぎて見えない場合もあるけれど、言っている事を自分なりに解釈するとこんな感じかなあ。

「ひとが考える固定概念をなくさないと分かりにくいからね。でもあってるよ」
「そっか、よかった」
「うん。じゃあ話のつづき。このせかいはじゅーだい達が行ってた異世界とにたようなとこなんだ」

こくり、と紅茶を飲んで喉を潤したが、逸れていた話を軌道修正させる。
嗚呼、そう言えばそう言う話をしていたんだった。なんだか難しい話をしていて忘れる所だった。
の話によると、ここも十二の異世界のような場所で、宇宙の何処かにある星のひとつらしい。
ネオスペーシアン達に出会った場所と似たような所なんだろうな、きっと。

そしてその話の続きを聞こうとした所で、くう、と小さな音を立てて俺の腹の虫が部屋に響いた。
…話に夢中でお腹が空いた事を忘れていたらしい。
はごはんにしようか、とにこりと笑ってそこで一旦話を切り上げた。