あおぞらのもとに、

 

今は待たなければならないと言う事は分かった。
けれど、どれ位待てば良いのかさっぱり分からない。
その疑問を口にする前に、はまるで俺の思考を読んだ様に微笑んだ。

「あと三日くらい待てばだいじょーぶ」

と言う訳で、その三日間、どうやって時間潰そうか。


「何も無いと…暇だなぁ」

時計が何処にあるのかが良く分からないけれど、今の太陽の位置からして昼はもう過ぎている頃だろう。
ぽかぽか陽気、と言える程の温かい陽射しが神殿の入り口から入り込んでいる。
その陽射しに誘われて神殿の入り口まで歩み寄ると、爽やかな風と共に紙の匂いが鼻を擽った。
暦ではまだ風が寒い時期だった気がするけれど、この空間はそんな感じは全くしない。
むしろもう春の陽気だ。暑くもなく、寒くもなく、過ごしやすい季節。
否、この空間に季節があるのかどうかも怪しい。ずっとこんな天気なのかも知れない。

「それはそれで過ごしやすい…けどなぁ」
「どうかした?」
「うわっ」

ぼんやりと考え事をしていると、直ぐ後ろから声が聞こえて肩が飛び上がる。
慌てて後ろを振り返ると、首を傾げたが数冊本を抱えて立っていた。
抱えている本は分厚く、今にも眩暈がしそうな難しそうな本だ。

「うん?」
「あ…いや、ここには季節があるのかなぁ、と思って」
「きせつ?」
「ああ。何か…楽園?みたいな感じでさ、雨の日とか夏の暑い日とか無い気がしてさ」

まるで楽園。御伽話とかで出てくる楽園に、雰囲気が似ている気がする。
見たことは無いけれど、今にも眠気が押し寄せてくるようなこの陽射し、一面に広がる緑、石畳。
そしてぽつん、と立つこの神殿。俺の世界では、こんなに綺麗な場所は無いと思う。
それだけ、綺麗で、影の部分なんてないように思えた。

「そんなことないよ。この空間もちゃんと天気はあるよ」
「そう、なのか?」
「うん。でも季節はないかなぁ…。雪が降ることがあっても、真夏みたいなあつい日はないよ」

俺の疑問をあっさりと否定したは、俺の横に寄り添う様に立って空を見上げた。
釣られて俺も同じように青空が広がる天を見つめる。太陽が眩しい。

「何て言うか…やっぱり比較的過ごしやすい所、なんだな」
「そうだね。天気はあいまいだから、流石にぼくも変えることが出来ないや」
「…そうなのか…?」

なんだかしっくり来ない返答だ。ぼく「も」、と言うのはどう言う事だろう。
まるで天気以外なら変える事が出来る様な言い回しだ。
否、三日後には過去を、現在を変えようと(元通りにしようと)している訳なんだけれども(俺も含む)。
そう言えばの事を何一つ聞いていなかった。不思議、と言えばそれで片付けられてしまいそうな存在な気がするから。
この空間―世界の事も何一つ聞いていない。
…暇ならそれを聞けば良かったんじゃないか。思考が鈍りすぎにも程がある。ぽかぽか陽気もたまには曇っていて欲しい。

「なあ、…えっと、暇だったらこの世界の事とかの事とか、教えてくれないか?」
「んー…ぼく説明へただから言ってもあまり理解は出来ないとおもうよ?」
「それでも良い。三日間何もしないよりはこの世界の事とか知っといた方が良いと思うしさ」
「ん…わかった。でもあまり期待しないでね」

そう言っては来た道を戻ってさっきまで座っていた椅子へと再び腰掛ける。
あそこがにとっての定位置なのだろう。今度は湯飲みではなく数冊の本がテーブルの上に乗っているけれど。
俺もさっきと同じ椅子に座って、の話を待った。

「んと…じゃあ何からはなそうか。じゅーだいは何がききたい?」
「そうだなぁ…。じゃあの事で」
「わかった。…ぼくの名前はさっきも言ったとおり。歳はもうおぼえてないや」
「俺より少し下位じゃないのか?」
「ちがうよ。見た目はこんなのだけど、じゅーだいよりずっと年上なんだ」
「そ、そうなのか…」

全然、そう言う風に見えない。言葉も何だかたどたどしい気がするし、大人びた感じは一切しない(と言うと失礼か)。
でもそうだとすると、俺って敬語で話さなくて良いのかなぁ。聞いていると俺より随分年上、と言った様な言い方だし。
…まあ、が気にしている様子は無いし、このままで良いか。

「ぼくたちはそう言うものなんだ。まあ、ぼくはまだこの世界のことを良く知らないから、こどもっぽく見えるのかもね」
「僕達?他にも誰か居るのか?」
「うん。たくさん居るよ。でも、この世界にぼくが知ってるものはいない。ぼくと似たようなのはいっぱい居るけどね」
「…全然分かんねー」

つまり、と同じ、長い年月を生きる人達は沢山居るけど、その中でが知っている人はこの世界には居ない。
でも、と似たような人はこの世界には沢山居るって事で…。つまり…どう言う事だ?
なぞなぞとか俺得意じゃないのに…。ああもう、頭がこんがらがって来た。
それだけ長生きするってイメージがあるのは…精霊とか?でもあいつらってどれ位生きてるんだろう。
俺のハネクリボーもどれ位生きてるのか気になるなあ。そんなに長生きしてるイメージ無いけど…。

「んー何て言えば良いかなあ」
「とりあえず…この世界にそんな長い年月を生きるものって居るのか?精霊しか浮かばないんだけど…」
「まあそれも近いっていえば近いかなあ。じゅーだいはたぶん会った事はないけど、しってるとおもう」
「会った事は無いけど…知ってる?」

また、なぞなぞ。
こくりと頷いたは頭を捻らす俺に更に続きを話す。
なんとも分かりやすい、なぞなぞのこたえを。

「そう。簡単にいうと…かみさまかな?」