あおぞらのもとに、

 

「こっち。ついてきて」

くるりと方向転換をして、は慣れた足並みで石畳を進んでいく。
その度にかつり、かつりと良い音が辺りに響き渡る。
周りを見渡す限りに広がる緑と色とりどりの色。どうやらここは、広い花園のようだ。
名前も分からない花が咲き誇り、遠目に見えるのは小さな休み場と思える石造りの建物。
まるで楽園のようだった。見た事なんて、ないけど。

「じゅーだい?」
「え?あ、ああ。今行く」

少し先を歩んでいたが、一歩も動こうとしない俺に呼びかける。
周りの風景に気を取られていて、足が全然動いていなかったらしい。
こんな見知らぬ場所で迷子になる訳にはいかないな、と思い、俺は小走りでの後ろへ追いつき、石畳を進んだ。


数分位、花園の石畳を進むと、行き成り開けた道に出る。
花園が終わっても石畳は続いていたが、その先にあるのは遺跡の様な、石造りの小さな神殿だった。
神殿、と言っても、雨風を凌げる屋根代わりの天井と、それを支える柱。
それに申し訳ない程度に見える石造りの壁。それだけ。
剥き出しの壁際には本棚が沢山あり、ぎっしりと名も分からない本が詰め込まれている。
そして大きなテーブルと、小さなテーブル。椅子が数脚と、床やテーブルの上に散らばった紙と本の山。
とても神殿とは思えない位の生活感。でも、住んでいるとは思えない。どちらかと言うと書斎みたいな所だ。
だが、書斎にしては広すぎる。本棚が部屋の半分位を占領している気もするが、それでも広い。

「ちらかってるけど気にしないで」
「ああ…」

先に中に入ったが床に散らばっている紙と本を手繰り寄せて小さなテーブルへ乗せる。
小さなテーブルには既に沢山の本が積まれていたが、綺麗に積まれている様で、崩れ落ちる事は無かった。
神殿の入り口で突っ立っているのもどうかと思うので、俺はゆっくりと入り口の階段を上った。

中に入れば、外から見るよりもその威圧感が分かる。
本に押し潰されそうな、そんな気がしてくる。天井まで届きそうなこの本棚…倒れない…よな。
一体どれだけの数の本があるのだろう、と思える位に、広々とした神殿の壁は全て本棚で囲まれていた。
これだけの本を読むのに、どれ位時間が掛かるんだろうか。生涯読み続けても尽きる事がなさそうな位の量だ。
俺なら一冊で終わるだろうな…。その前に背表紙の文字が読めない。何語だ。

「じゅーだい、緑茶か紅茶、どっちがいい?」

ふとそんな声が本棚の奥から聞こえてくる。神殿にはこの部屋しか無さそうな気がするのだが、の姿は見えない。
俺が答えないでいると、ひょこりと部屋の真ん中にある本棚の端からの頭が出る。
どっち?と首を傾げて問い掛けてくるに、俺は緑茶、と呟いた。

「わかった、椅子に座ってまってて」
「…分かった…」

指が指された先には外から見えた大きなテーブル。ダイニングテーブルか何かなのだろう。
そちらの方に足を向けると、テーブルの大きさの割には椅子が少ない事に気付く。十脚位は余裕で置けるのに、そのテーブルには四脚しかなかった。
人が居ないんだろうか?そう言えばこんなに広々とした部屋なのに、しか居ない。外にもあれだけ広い花園があったのに、人影は無かった。
何故だろう、と疑問に思うけれど、やっぱり答えは出そうになかった。それよりも、に直接聞いた方が早いと思う。

「おまたせ」

二つのカップ(湯のみ?)を危なげにお盆に乗せて、はとことことこちらに向かってくる。
足元に本が散らばっていない為、躓いてこける、なんて事は無さそうだが、危なっかしい。
本人は全く気にしていないみたいだが、端から見ると今にもバランスを崩して大惨事、となりそうな予感がして内心どきどきだ。
それでも何とかダイニングテーブルに辿り着いたは、ことりとお盆を置いて湯飲みをテーブルの上に置いた。

「はい」
「あ、さんきゅ」
「どういたしまして」

にこり、と微笑み、は俺の向かい側にあった椅子を動かし、テーブルの右横に寄せてそれに座った。
何か話すようだ。俺も出来るだけに近付く様に右の方へ椅子を動かす。
大きいテーブルに対して使う部分がほんの少しだと、使っていない部分が多くて少し寂しい気がする。
テーブルの上に何か置いていたらそんな事は感じないと思うが、生憎ダイニングテーブルの方にはが置いたお盆と湯のみ以外は何も置いていなかった。
だから余計に、広々と感じて寂しい気がする。

「…さて、なにからはなそうか?」
「…と言ってもなぁ。…とりあえず…ユベルは、どうなったんだ?」
「まずはそこからか。ぼくがわかる範囲でならこたえるね」

一番最初に気になったのは、前世からの友の事だった。
確か俺がここに来る前、ユベルとデュエルしていた筈だ。そして、そこで「あの」カードを使った。
…超融合、のカード。
あの力によって、俺とユベルの魂は融合してひとつになる筈だった。…なのに、今、俺の中にユベルは…居ない。
そして気が付けば白の世界に居て、目が覚めれば…ここに居た。

「あの子はちゃんとそんざいしているよ」
「本当か!?…でも、俺の中には…」
「うん、居ない。でも、あの子はきえてなんかいない。…うーん、簡単にいうと、」
「…言うと?」

「たぶん、おいてきちゃった」