あおぞらのもとに、

 

白の世界。
目を閉じている筈なのに、手を掴んでいるが見えていた。
それ以外は濁りの無い真っ白な世界が広がっている。
その中で俺は引っ張られていた。何処に向かっているのかは、わからない。
何処がこの無重力の旅の終わりなのか、何処に繋がっているのか、わからなかった。
否、過去の世界と言う事だけは分かる。でもそれ以外は分からない。大まかな事しか分からなかった。
過去とはいつなのか、どの場所に行くのか、分からなかった。
ただ俺は、神様の道案内になすがままになっていた。

一体どれ位その世界に居たのだろうか。
時間の感覚が全く無いので、数分なのか、何十分も経っているのか、分からなかった。
ふ、と俺の手を掴んでいたの力が緩む。
薄っすらと目を開くと、やっぱり背中を向けたがそこに居た。

「…?」
「ついたよ、じゅーだい」

くるり、とは顔をこちらに向けて微笑んだ。
すると真っ白だった世界が一瞬にして無くなり、薄暗い世界が視界を満たした。
行き成りの事だったので目を見開くけれど、白しか無かった世界から一瞬で暗い世界になったので辺りは真っ黒にしか見えなかった。
数回瞬きをして目を慣らそうとするが、薄っすらと凹凸が見えるだけで短い時間では慣れそうになかった。

「ここは…何処だ?」
「どこだろうね。たぶん、じゅーだい達がいた異世界の、どこか」
「…アバウトだなあ」
「あばうとだね」

にこにこと笑っているに苦笑いをしてみるけれど、には全く通用していないようだった。むしろ気が付いていないように見える。
意外と天然な所があるのかなあ…。いや、意外と言うよりは天然だった、と言う方が当てはまるような気がする。
なんかおっとりしているし、ふにゃって感じがするし。嗚呼、自分でも何言ってるのか分かんない。
とにかく、異世界と言う事は確かなのだし、ここにユベルも、覇王も居るに違いない。…たぶん。

「本当に居るのかなあ…ここに」
「いるよ」
「…分かるのか?」
「うん。かみさまの勘はあたるんだよ」

…勘ですか。
はっきりとした理由では無く勘ですか。…まあ、神様だし、普通の人の勘よりかは当てにしていいのだろうと思うけど…。
…うん、もう何も突っ込まないようにしよう。今は目の前の事だけ考えよう。こんな事で悩んじゃ駄目だ。頭悪いし、悩んでも意味無いと思うし。
どうせ自分一人では何も出来ないのだから、神様の言う勘を信じて今は前に進もう。
そうして一歩足を前に出そうとして、止まる。

「…あれ?」
「どうかした、じゅーだい」
「…俺、浮いてる?」

今更地面を踏んでいる感触がない事に気が付いた(何故気が付かなかったんだろう…が平然としていたから?)。
下を見てみると、漸く目が慣れてきたのか地形がはっきりと分かるようになっていた。
沢山の凹凸があって、その中にぼろぼろになった瓦礫や真っ黒な森が広がっている。
山か何かなんだろう。その奥は暗い空が広がっていて、先になにがあるのかは分からない。
見覚えがありそうで…無い。上から見た事なんて無いのだから、分からないのも当然だと思う。
でも雰囲気はこんな感じだった筈だ。空が暗かったのはよく覚えてる。場所は分からないけれど。

「それだけじゃないよ」
「え?」

暗い地上の景色を見ていた俺に、が首を振って言った。
何の事だろう?と首を傾げると、笑みを絶やさずにが俺を指さし、「ね?」と同意を求めるように囁く。
さっぱり理解出来ない俺は疑問符を散りばめながら指された自分の身体を見て…、の言動に納得した。
…透けていた。幽霊みたいに。いやむしろ精霊みたいに。
試しに手を握ってみる。…感触はあった。けれど、薄っすらと下に広がる真っ黒な世界が透けて見えた。

「…なんで?」

頬を抓り(痛かった)、自分の身体を触ってみるが、触れている感触は確かにあった。
けれど、どう言う訳か身体が透けている。もしかして身体をすり抜けたりする事が出来るのかなあ、と片方の手のひらをもう片方の手で突いてみるが、結局突いた部分が痛くなるだけですり抜ける事は無かった。
自分は死んだつもりもないし、精霊になったつもりもないのに…どうして透けているんだろう?
そんな想いを込めてに聞いてみると、答えはあっさりと返ってきた。

「身体がないからだよ」
「…無い?でもさっきまでは…」
「ここは過去のせかいだからね。きみは未来からきたから、このせかいにはきみの身体はないの」
「んん…?」

散々難しい話をされていたからか、何となくだがの話が分かるようになってきた。
簡単に言うと、過去には未来の俺は存在していないから、身体が無い、と。
でも意識は存在している。うーん、やっぱり見た目は精霊と同じような感覚だと思う。
は「分かんなくてもいいよ」と笑っていたけれど…やっぱりアバウトだ(でもどうせ理解しても状況が変わる訳じゃないので頷くだけで終わった)。
それよりも今はいつなのだろうか?過去の俺達は結構長い時間この世界に居た訳だし、その中のいつなのかが分からないと行動しようがない。
もしかしたらまだ俺達が異世界に来ていない時かもしれないし、もう全てが終わった後かも知れない。…いや、流石に『過去』の事なんだから後者はないとは思うけれど…。

「会いにいけばいいんじゃない?」
「え?…誰に?」
「はおーに」
「…は?」

そう言っては何処かな、と右手を額に当てて遠くの方を見た。けれど、真っ暗な世界があるだけで目ぼしい物は無いように見えた。
俺は俺で少し呆けていた。まあ、の言い分は正しいとは思う。それが一番手っ取り早いし、覇王が居るならどの位の時間軸なのかが大体分かるはずだ。
でも、ここがどの場所なのか見当が付かない以上、覇王城に行く事が出来るのか分からない。現在地が分からないのに、目的地までどうやって行くんだ。
虱潰しで探していては時間がかかり過ぎると思うし…。この世界がどれ位大きいのかは分からないけれど、結構な広さだと思うし。
それに…こう、ぶっちゃけて言うとこんなにぱぱっと進めていいものなのか?もっとこう、物語の進行上ごたごたに巻き込まれたり…(ぶつぶつ)。

「じゅーだいもはやいとこ終わらせたいでしょ?」
「まぁ…そうだけどさ」
「じゃあぱぱっと行ってぱぱっと帰ってこればいいんだよ」

そんなものなのかなあ、と俺は空を見上げて溜め息を吐いた。相変わらず空が青くなる事は無い。
も空を見上げてそうだよ、と呟くと、そこでくるりと一回転をして俺の方に振り向いた。

「じゃ、いこっか」
「場所分かるのか?」
「うん。あっちじゃないかな」

二時の方向をは示すが、俺には暗い空以外見えるものが無い。
神様は目まで良いのか?と聞くと、はにっこりと微笑んで、「勘だよ」と言った。

 


過去編突入。ぱぱっと終わらせれればいいです。