あおぞらのもとに、

 

答えが出たのか出なかったのか、それは分からない。
けれど、次の日の朝、が笑ってたから、それで良かったんだと思う。

楽園に来てから四日目の昼。朝に一目だけ見たが神殿へ帰って来た。
何処に行っていたのかは知らないけれど、多分、過去に戻る準備をしていたんだと思う。
朝食を食べ終わってうとうととしていた俺は、物音がしてぱっと目が覚めた。…今まではこんな事無かったなあ。そのままうとうとしているか寝る筈だ。
少しは成長しているのか、それとも今日がちょっとしたイベントになるから眠れないのか、そのどちらなのだろう。後者の気がするけど。

「…おかえり」
「うん、ただいま」
「何処、行ってたんだ?」
「ん、準備だよ。できたから、じゅーだいを呼びにきたんだ」

やっぱり準備だったか、と心の中で思うとはにこりと微笑んだ。
俺はこくりと頷き、座っていた椅子から腰を上げる。俺は何も持ってはいないので、特に準備をする必要はない。
あるとすれば心の準備だ。だけど、それはもう、ユベルを助けると決めた時から出来ている。
覚悟はちゃんと出来ている筈だ。俺の中では。

「りらっくすだよ、じゅーだい」
「うー…」
「ふふ。じゃ、いこっか」

はちょいちょい、と俺を手招きした。外に出ろと言う事なのだろう。
準備していた場所までどれ位掛かるのかは知らないけれど、それほど歩く距離では無いのだろう。流石に遠い場所で準備するのは大変だと思うし。
俺はの後を追いかけて、数日ぶりの石畳を踏んだ。

丘に繋がる石畳を途中まで歩くと二股に石畳が分かれる。丘に続く道とは別の石畳をは進み、俺もその後に続く。
この道は進んだ事が無い。先に何があるのかは分からないけれど、目視ではぽつぽつと樹があるだけでそれ以外は何も無いように見えた。
だが、その考えも直ぐに空に消える。周りに咲き誇っていた花園が消えたからだ。
辺りは黄緑一色の草原に包まれる。その先にぽつり、と何かが立っていた。
は迷い無くその何かを目指して進んでいく。
数十歩歩いた所で、徐々にその何かの輪郭がはっきりしていく。鈍い金色の縁が縦長の長方形を形取っていた。
簡単に言うと、金の額縁だろうか。けれど、中にある筈の絵は無かった。鏡、と言う訳でも無いらしい。
ぽっかりと穴が開いた額縁の奥には周りと同じ草原の景色が広がっている。それが絵のような気もするけれど、周りの景色と同化して額縁の方が不自然だった。

「そう?」
「俺には変に見えるなあ…」
「そっか。感じかたは人それぞれだもんね」

そう言ってはつつ、と額縁の複雑な模様をなぞった。
と言う事はは特に変だとは思っていないのかなあ。うーん、俺は変に見えるけど…。
でも芸術的、と言えばそうなのかも知れない。俺は違和感を感じるけれど、それは芸術性が欠けているからなのかもなあ。

「それで…なんで額縁なんだ?」
「ん、これが扉なの」
「扉?」
「うん、せかいを繋ぐ扉。あまり使わないから調整にじかん掛かっちゃった」

ほう、と相槌を打って額縁をなぞるを見る。その横顔は薄く笑っているだけで、何を考えているのか分からなかった。
俺の視線に気が付いたのか、はくるりと俺の方に振り返った。
そしてにこり、と笑い、「いこっか」と言って俺の手を引いた。

どうやって?と咄嗟に言い掛けるけれど、結局その疑問を口にする事が出来なかった。
額縁を通り抜けたら、あるはずの見渡す限りの草原が消えて視界が白に染まったからだ。

始まりと同じ白の世界が、そこには広がっていた。


白のせかいは、せかいの狭間。
それはせかいを繋ぐたいせつな間。
ぽっかりとあいた狭間はじかんも、ばしょも、ぜんぶが歪んでいる。
だから普通のひとは入っちゃいけないせかい。だって、白にのみこまれてしまうから。
でもじゅーだいは特別なの。普通じゃない子だから、白にのみこまれたりはしない。
だから、だいじょーぶ。

 


普通の人以外なら入っても支障は無し。それが例え死んでいても。遊戯とか王様も入っても支障は無い気がする。あの人達も普通じゃないから。
でも支障は無くても迷ってしまうので、神様のような案内人が必要です。神様しか案内出来ないけど。