恋色マジック
太った?なんて女の子に聞くのはもちろん駄目!ちょっとふくよかな子でも、絶対に言っちゃいけない禁句。それが外見を比べる台詞。
誰にだって可愛いとか、綺麗に思われたい。女の子は誰しも心の奥底でそう思っているのだ。
だからそんな、太った、なんて言われるなんて…ましてや好きな人に言われたらショック以外の何物でもないのだ。
でもこいつは、この空気を読まない眼鏡は。
「、君って太ったんじゃない?」
「…」
事もあろうに人が行き交うストリートのど真ん中で、そんな爆弾発言を投下したのだ。隣で。
並んで歩いている途中だった私の足はぴたりと止まり、ぎぎぎ、と音を立てて奴の方へ頭を傾ける。
私が止まった事を疑問に思ったのか、奴も足を止めて数歩後ろの私に振り替える。どうしたんだい、と心底不思議そうな表情をするのは一片も悪い事を言ったと思っていないと言う証拠。
うわあ、どうしよう、すっごい張り倒したい気分。分かっていたけどさ、こいつが全くと言っていいほど空気を読まないなんて。分かってた、それはもう随分前から分かっていた事だった。
だけど、だけど。流石にそれは、今ここで言うタイミングじゃあ無いと思うんだ。うん、なんだってストリートのど真ん中で言ってくれたの。すれ違い様に誰かに聞かれてたら、聞かれてたら…。
「…うあああんもうアルフレッドのばかあああ」
「いひゃっ…ひひゃい、いひゃいんらろー」
「ばかあああアルだってメタボの癖にいいい…!この袋の山を持ってそれを言うなんてー!」
「、いた、痛いってば!」
ぐにぐにと触り心地の良いアルフレッドの頬を思いっきり引っ張って、私はストリートのど真ん中で泣いた。
行き交う人達は何事か、とぎょっとしていたけど、私は気にせずアルフレッドの頬を引っ張り続ける。びにょーんとお餅みたいに伸びる頬は男の頬とは思えない程やわらかかった。
いつもハンバーガーかお菓子を片手に持っているメタボの癖に、私にそんな事を言ってのける彼は私の母国。
超大国と呼ばれるアメリカの人の姿がこのアルフレッドだった。私と同じ位のティーンの姿は、この国の歴史が浅い所為かしら?性格も大人じゃなくて、子供っぽい考えが先行していて、口癖は「ヒーローだからさ!」らしい。うん、流石は私の母国、アメリカンらしい考えだわ。
でもね、やっぱり言っちゃいけない事はこの人でもあると思うの。男なんだから、レディに対しては紳士に振舞って欲しいんだけど!それとも元兄が紳士だったからそれに反抗してこう言う振舞いをしているのかしら。うわあ、どっちにしろ失礼だ。
私よりもずっと歳を重ねていて、多くの事を学んでいる筈なのに、どうしてこいつはそれを活かさないんだろうか。そう言う性格だから?うーん、分からない。
「ヒーローだったら女の子に対して失礼な事言っちゃいけないんだからああああ」
「ふへ?おへなんは変なほほいっひゃかい?」
「何言ってるか分かんないしさあああもうアルのばかあああばかばかああ」
「それはひみがつねっへ…いひゃ、いひゃいい」
うわああんと今度は髪を巻きこんで頬をグーでぐりぐり捏ねる。内側にゆっくりカーブしているアルフレッドの金髪はちょっとの刺激じゃあ全く跳ねない。その代わり、分け目に生えているナンツケッツのアホ毛がぴょんぴょん揺れ動いていた。
きらきらした青い瞳をぎゅっと閉じて、アルフレッドはもごもごと喋っていたけれど、何を言っているのか私には分からなかった。
頬を弄られている間にも脇に抱えていた紙袋を手放さない辺り、ちゃっかりしてるって言うか何と言うか。ちなみに入っているのはさっき買ったハンバーガーの山だ。既に半分程が紙くずになってしまっているけど、残りは温かさを保ったまま袋の中に沈んでいる筈だ。
こんな時までハンバーガーを大切にするなんて、私とどっちが大事なんだろう、全く(十割の確率でハンバーガーだろうけどね)!
自分の事は差し置いて私に体型の事を言うなんて、言ってくれるじゃないこのメタボ。その内ハンバーガーの食べ過ぎでお腹の脂肪がお餅みたいに分裂しても知らないんだから(あ、そうしたら痩せちゃうか)!
「ぷはっ…もー!君ってば何て事するんだい!あと泣かないでくれよ!俺が泣かしたみたいじゃないか!」
「実際そうじゃない!アルの自業自得だもん!」
「だからなんでそうなるんだい!」
頭からぽこぽこと湯気を出す私達は、ここがストリートのど真ん中である事をすっかり忘れて怒り合う。
その内手が飛んできそうなハラハラした展開になってきているのだが、周りの人達は然程気にした様子も無く素通りしていく。一部の人は野次を飛ばそうとしてたけど、アルフレッドが一睨みするとそそくさと退散していった。見世物じゃないんだぞ、って言う事は分かるけど、何も睨む事は無いんじゃない?
私は口をへの字に曲がらせ、ぷいっとアルフレッドから視線を逸らす。視界はぼやけて、目尻には涙が溜まっているみたいだった。
アルフレッドは私が怒っている理由についてまだ見当もつかないらしく、頬を膨らませてこちらも視線をぷいっと逸らしていた。
ああもう、これじゃあ埒が明かない。つま先をかつかつと鳴らして仕方なく吐息を吐くと、少しだけ気分が落ち着いた。苛々は溜まってるけど。
「私が泣いたのは…、アルが、さっき太ったって言ったから。女の子に体重の話をするなんて配慮が足りないから、怒ったの」
「…えっ?それだけかい?」
「そ、れだけって…。そ、そりゃあ些細な事かもしれないけど…!でもアルだって太ってるのに自分を差し置いてそんな事言うなんて変じゃない!」
「あー…そう言う事かい。…もうこの際俺の事はどう言ってくれても構わないさ。けど俺は悪い意味で言ったんじゃないんだぞ?」
「…どういうこと?」
アルフレッドの発言に疑問符を浮かべて、私は眉を顰める。だって、太った、なんて、悪い意味でしか言わないんじゃないの?
彼が何を言いたかったのか分からない。首を傾げて心の中でそう呟くと、アルフレッドはやれやれ、と額に手を当ててぷすりと息を吐いた。む、なんだその反応。
訝しむ私に、彼は抱えていた紙袋を片手で持ち直し、フリーになった逆の手を何故か私の腰に回してくる。ぱちり、とウィンク付きで微笑まれて、私はぽかん、と薄く口を開けて呆けてしまった。
「、君って自分が軽過ぎる事を自覚してるかい?」
「え?」
「痩せ過ぎって事さ!もっと俺みたいに肉を付けないと、腕なんか今にも折れちゃいそうだよ!」
そう言ってアルフレッドは私を抱く力を強めた。あ、ちょっと、そんなに力入れたら腰の骨折れちゃう!
…ってあれ?もしかしてアルはこの事を言っているのだろうか?いやでも正直言うと、アルフレッドの腕力は一般人と違って恐ろしく強い。大の大人だって軽々と片手で持ちあがる位だ。元々力が強かったらしいんだけど、私からしてみると超人の域だ。まあそもそも人間じゃあないんだから比べるのはおかしいんだけど。
だから私が仮に痩せ過ぎだとしても、アルフレッドの力の前じゃあ私の身体は直ぐにばっきばきに折れちゃう筈だ。アルフレッドと私は違うんだから、彼の基準で例えられても…ねえ。
今だって私が彼を引き剥がそうと胸を押しても、びくともしない。本当は仰け反るくらいはして欲しいんだけど…、場所を考えて抱きついて欲しいわ、全く。
と言う事で、私が痩せ過ぎていることはあくまでもアルフレッド一人の意見であって、実際にはそれ程痩せちゃあいないってこと!自分で言ってて悲しいけど、これが現実なんだから仕方ない。
うんうんと自分で頷いてアルフレッドにそう言うと、彼は私とは逆にぶんぶんと音が鳴る位に首を振って、それは違うよ!と否定の言葉を述べた。
「他の人だって言ってたんだぞ!エリザベータだってはもっと食べた方が良いって言ってたし!」
「エリザさんが?…あー…そう言えばそんな事も言われたような…」
「だろう?だからもっと食べないといけないんだって!」
「でも私、元からそんなに食べな…」
ずん、と言いかけた言葉は押し付けられた何かによって遮られてしまう。
がさがさと紙の包みと共にふわりと良い香りが鼻について、思わずぴくりと反応する。これは、この香りは。
焦点がずれてぼやける視界を、身を引く事で元に戻していく。かさりと音を立てて目の前に現れたのは、アルフレッドがいつも買っているハンバーガーの包み紙だった。しかもまだ温かい。
「ほら、君チーズバーガー好きだろう?あげるから食べなよ」
「うぐ…。ううう…なんか餌付けされた感が否めない」
「気の所為なんだぞ!」
DDDDとアルフレッドは笑って、大きい紙袋から中身があるハンバーガーを次々と出していく。ゴミになってる包み紙は分ければいいのに、それじゃあ食べ難いんじゃないの?
ぽそりと私はそう呟いたけれど、彼の耳にはどうやら届いていないようだった。都合の良い耳をお持ちでいらっしゃる、我が国は。
仕方なく渡されたハンバーガーの包みを両手で持って、包装を解いていく。出来たて、とまではいかないけれど、湯気が出る位に程良い温かさを持ったチーズバーガーは私のお腹を刺激してぐう、と音を鳴らさせた。人ごみの中じゃ無かったら確実に隣の奴に聞かれてただろう、危ない危ない。
バンズに挟まれたチーズがとろりと溶けて美味しそうなハンバーガーを、私は一口ぱくりと食べる。一月に数回食べるハンバーガーの味は飽きが来ない味付けで、ケチャップとピクルスがアクセントになってて美味しかった。
一口食べれば食は進む、と言う事で、もごもごと口を動かしていく内に丸かった形がどんどん歪になっていく。最後の一口は手を汚さないように人差し指と親指で摘み、口に放り込む。ぺろりと口の端に付いたケチャップを舐めると、アルフレッドはまだあるんだぞ、と新しい包みを差し出してきた。
「いや、一つで十分なんだけど…」
「そうかい?もっと脂肪付けないと、バストアップ出来ないんだぞー」
「本心はそっちか!悪かったわね、そんなに胸無くて…」
頬を膨らませて新しい包みをアルフレッドの手から奪い取り、今度は少し乱暴に包装を解いていく。あ、今度はダブルチーズだ。
とろん、と包装紙にこびり付いてしまっているチーズをハンバーガーに付けて(勿体無いもの!)、ぱくりとまた一口。さっきと味は一緒だったけど、一枚多く入ったチーズが濃厚でさっきよりも美味しかった。
アルフレッドも同じ物を食べているみたいで、ハンバーガーを片手にコーラを飲んで、更にはポテトにも手を伸ばしている。その手捌きは見事なもので、手がいくつあるのか分からなくなりそうな瞬間もあってびっくりした。どうしたらそんな動きが出来るんだろう。おまけで紙袋も抱えていると言うのに。
微妙な彼の特技(なのかは分からないけど)に少し感心して目を輝かせていると、アルフレッドがふと気付いたようにハンバーガーを食べる口を止める。
「そう言えば調査によると君達のチーズ年間消費量って、一人当たり15kgもあるんだってさ。ってチーズ好きだからそれ位食べてそうだよね」
「へー…でも年間でしょう?14kgも食べてたら私、この体型じゃないよ、きっと。むしろアルの方が食べてる気がする」
「ええ?俺はそれほどチーズが好きな訳じゃないんだぞ?絶対の方が食べてるって」
「いやいやアルの方でしょー、今食べてるハンバーガーのチーズが溜まりに溜まってそのお腹になってるんだから!」
え、と思わずお腹を押さえるアルにによによと笑って、私は残りのハンバーガーに齧り付いた。うん、美味しい!
誰にだって可愛いとか、綺麗に思われたい。女の子は誰しも心の奥底でそう思っているのだ。
だからそんな、太った、なんて言われるなんて…ましてや好きな人に言われたらショック以外の何物でもないのだ。
でもこいつは、この空気を読まない眼鏡は。
「、君って太ったんじゃない?」
「…」
事もあろうに人が行き交うストリートのど真ん中で、そんな爆弾発言を投下したのだ。隣で。
並んで歩いている途中だった私の足はぴたりと止まり、ぎぎぎ、と音を立てて奴の方へ頭を傾ける。
私が止まった事を疑問に思ったのか、奴も足を止めて数歩後ろの私に振り替える。どうしたんだい、と心底不思議そうな表情をするのは一片も悪い事を言ったと思っていないと言う証拠。
うわあ、どうしよう、すっごい張り倒したい気分。分かっていたけどさ、こいつが全くと言っていいほど空気を読まないなんて。分かってた、それはもう随分前から分かっていた事だった。
だけど、だけど。流石にそれは、今ここで言うタイミングじゃあ無いと思うんだ。うん、なんだってストリートのど真ん中で言ってくれたの。すれ違い様に誰かに聞かれてたら、聞かれてたら…。
「…うあああんもうアルフレッドのばかあああ」
「いひゃっ…ひひゃい、いひゃいんらろー」
「ばかあああアルだってメタボの癖にいいい…!この袋の山を持ってそれを言うなんてー!」
「、いた、痛いってば!」
ぐにぐにと触り心地の良いアルフレッドの頬を思いっきり引っ張って、私はストリートのど真ん中で泣いた。
行き交う人達は何事か、とぎょっとしていたけど、私は気にせずアルフレッドの頬を引っ張り続ける。びにょーんとお餅みたいに伸びる頬は男の頬とは思えない程やわらかかった。
いつもハンバーガーかお菓子を片手に持っているメタボの癖に、私にそんな事を言ってのける彼は私の母国。
超大国と呼ばれるアメリカの人の姿がこのアルフレッドだった。私と同じ位のティーンの姿は、この国の歴史が浅い所為かしら?性格も大人じゃなくて、子供っぽい考えが先行していて、口癖は「ヒーローだからさ!」らしい。うん、流石は私の母国、アメリカンらしい考えだわ。
でもね、やっぱり言っちゃいけない事はこの人でもあると思うの。男なんだから、レディに対しては紳士に振舞って欲しいんだけど!それとも元兄が紳士だったからそれに反抗してこう言う振舞いをしているのかしら。うわあ、どっちにしろ失礼だ。
私よりもずっと歳を重ねていて、多くの事を学んでいる筈なのに、どうしてこいつはそれを活かさないんだろうか。そう言う性格だから?うーん、分からない。
「ヒーローだったら女の子に対して失礼な事言っちゃいけないんだからああああ」
「ふへ?おへなんは変なほほいっひゃかい?」
「何言ってるか分かんないしさあああもうアルのばかあああばかばかああ」
「それはひみがつねっへ…いひゃ、いひゃいい」
うわああんと今度は髪を巻きこんで頬をグーでぐりぐり捏ねる。内側にゆっくりカーブしているアルフレッドの金髪はちょっとの刺激じゃあ全く跳ねない。その代わり、分け目に生えているナンツケッツのアホ毛がぴょんぴょん揺れ動いていた。
きらきらした青い瞳をぎゅっと閉じて、アルフレッドはもごもごと喋っていたけれど、何を言っているのか私には分からなかった。
頬を弄られている間にも脇に抱えていた紙袋を手放さない辺り、ちゃっかりしてるって言うか何と言うか。ちなみに入っているのはさっき買ったハンバーガーの山だ。既に半分程が紙くずになってしまっているけど、残りは温かさを保ったまま袋の中に沈んでいる筈だ。
こんな時までハンバーガーを大切にするなんて、私とどっちが大事なんだろう、全く(十割の確率でハンバーガーだろうけどね)!
自分の事は差し置いて私に体型の事を言うなんて、言ってくれるじゃないこのメタボ。その内ハンバーガーの食べ過ぎでお腹の脂肪がお餅みたいに分裂しても知らないんだから(あ、そうしたら痩せちゃうか)!
「ぷはっ…もー!君ってば何て事するんだい!あと泣かないでくれよ!俺が泣かしたみたいじゃないか!」
「実際そうじゃない!アルの自業自得だもん!」
「だからなんでそうなるんだい!」
頭からぽこぽこと湯気を出す私達は、ここがストリートのど真ん中である事をすっかり忘れて怒り合う。
その内手が飛んできそうなハラハラした展開になってきているのだが、周りの人達は然程気にした様子も無く素通りしていく。一部の人は野次を飛ばそうとしてたけど、アルフレッドが一睨みするとそそくさと退散していった。見世物じゃないんだぞ、って言う事は分かるけど、何も睨む事は無いんじゃない?
私は口をへの字に曲がらせ、ぷいっとアルフレッドから視線を逸らす。視界はぼやけて、目尻には涙が溜まっているみたいだった。
アルフレッドは私が怒っている理由についてまだ見当もつかないらしく、頬を膨らませてこちらも視線をぷいっと逸らしていた。
ああもう、これじゃあ埒が明かない。つま先をかつかつと鳴らして仕方なく吐息を吐くと、少しだけ気分が落ち着いた。苛々は溜まってるけど。
「私が泣いたのは…、アルが、さっき太ったって言ったから。女の子に体重の話をするなんて配慮が足りないから、怒ったの」
「…えっ?それだけかい?」
「そ、れだけって…。そ、そりゃあ些細な事かもしれないけど…!でもアルだって太ってるのに自分を差し置いてそんな事言うなんて変じゃない!」
「あー…そう言う事かい。…もうこの際俺の事はどう言ってくれても構わないさ。けど俺は悪い意味で言ったんじゃないんだぞ?」
「…どういうこと?」
アルフレッドの発言に疑問符を浮かべて、私は眉を顰める。だって、太った、なんて、悪い意味でしか言わないんじゃないの?
彼が何を言いたかったのか分からない。首を傾げて心の中でそう呟くと、アルフレッドはやれやれ、と額に手を当ててぷすりと息を吐いた。む、なんだその反応。
訝しむ私に、彼は抱えていた紙袋を片手で持ち直し、フリーになった逆の手を何故か私の腰に回してくる。ぱちり、とウィンク付きで微笑まれて、私はぽかん、と薄く口を開けて呆けてしまった。
「、君って自分が軽過ぎる事を自覚してるかい?」
「え?」
「痩せ過ぎって事さ!もっと俺みたいに肉を付けないと、腕なんか今にも折れちゃいそうだよ!」
そう言ってアルフレッドは私を抱く力を強めた。あ、ちょっと、そんなに力入れたら腰の骨折れちゃう!
…ってあれ?もしかしてアルはこの事を言っているのだろうか?いやでも正直言うと、アルフレッドの腕力は一般人と違って恐ろしく強い。大の大人だって軽々と片手で持ちあがる位だ。元々力が強かったらしいんだけど、私からしてみると超人の域だ。まあそもそも人間じゃあないんだから比べるのはおかしいんだけど。
だから私が仮に痩せ過ぎだとしても、アルフレッドの力の前じゃあ私の身体は直ぐにばっきばきに折れちゃう筈だ。アルフレッドと私は違うんだから、彼の基準で例えられても…ねえ。
今だって私が彼を引き剥がそうと胸を押しても、びくともしない。本当は仰け反るくらいはして欲しいんだけど…、場所を考えて抱きついて欲しいわ、全く。
と言う事で、私が痩せ過ぎていることはあくまでもアルフレッド一人の意見であって、実際にはそれ程痩せちゃあいないってこと!自分で言ってて悲しいけど、これが現実なんだから仕方ない。
うんうんと自分で頷いてアルフレッドにそう言うと、彼は私とは逆にぶんぶんと音が鳴る位に首を振って、それは違うよ!と否定の言葉を述べた。
「他の人だって言ってたんだぞ!エリザベータだってはもっと食べた方が良いって言ってたし!」
「エリザさんが?…あー…そう言えばそんな事も言われたような…」
「だろう?だからもっと食べないといけないんだって!」
「でも私、元からそんなに食べな…」
ずん、と言いかけた言葉は押し付けられた何かによって遮られてしまう。
がさがさと紙の包みと共にふわりと良い香りが鼻について、思わずぴくりと反応する。これは、この香りは。
焦点がずれてぼやける視界を、身を引く事で元に戻していく。かさりと音を立てて目の前に現れたのは、アルフレッドがいつも買っているハンバーガーの包み紙だった。しかもまだ温かい。
「ほら、君チーズバーガー好きだろう?あげるから食べなよ」
「うぐ…。ううう…なんか餌付けされた感が否めない」
「気の所為なんだぞ!」
DDDDとアルフレッドは笑って、大きい紙袋から中身があるハンバーガーを次々と出していく。ゴミになってる包み紙は分ければいいのに、それじゃあ食べ難いんじゃないの?
ぽそりと私はそう呟いたけれど、彼の耳にはどうやら届いていないようだった。都合の良い耳をお持ちでいらっしゃる、我が国は。
仕方なく渡されたハンバーガーの包みを両手で持って、包装を解いていく。出来たて、とまではいかないけれど、湯気が出る位に程良い温かさを持ったチーズバーガーは私のお腹を刺激してぐう、と音を鳴らさせた。人ごみの中じゃ無かったら確実に隣の奴に聞かれてただろう、危ない危ない。
バンズに挟まれたチーズがとろりと溶けて美味しそうなハンバーガーを、私は一口ぱくりと食べる。一月に数回食べるハンバーガーの味は飽きが来ない味付けで、ケチャップとピクルスがアクセントになってて美味しかった。
一口食べれば食は進む、と言う事で、もごもごと口を動かしていく内に丸かった形がどんどん歪になっていく。最後の一口は手を汚さないように人差し指と親指で摘み、口に放り込む。ぺろりと口の端に付いたケチャップを舐めると、アルフレッドはまだあるんだぞ、と新しい包みを差し出してきた。
「いや、一つで十分なんだけど…」
「そうかい?もっと脂肪付けないと、バストアップ出来ないんだぞー」
「本心はそっちか!悪かったわね、そんなに胸無くて…」
頬を膨らませて新しい包みをアルフレッドの手から奪い取り、今度は少し乱暴に包装を解いていく。あ、今度はダブルチーズだ。
とろん、と包装紙にこびり付いてしまっているチーズをハンバーガーに付けて(勿体無いもの!)、ぱくりとまた一口。さっきと味は一緒だったけど、一枚多く入ったチーズが濃厚でさっきよりも美味しかった。
アルフレッドも同じ物を食べているみたいで、ハンバーガーを片手にコーラを飲んで、更にはポテトにも手を伸ばしている。その手捌きは見事なもので、手がいくつあるのか分からなくなりそうな瞬間もあってびっくりした。どうしたらそんな動きが出来るんだろう。おまけで紙袋も抱えていると言うのに。
微妙な彼の特技(なのかは分からないけど)に少し感心して目を輝かせていると、アルフレッドがふと気付いたようにハンバーガーを食べる口を止める。
「そう言えば調査によると君達のチーズ年間消費量って、一人当たり15kgもあるんだってさ。ってチーズ好きだからそれ位食べてそうだよね」
「へー…でも年間でしょう?14kgも食べてたら私、この体型じゃないよ、きっと。むしろアルの方が食べてる気がする」
「ええ?俺はそれほどチーズが好きな訳じゃないんだぞ?絶対の方が食べてるって」
「いやいやアルの方でしょー、今食べてるハンバーガーのチーズが溜まりに溜まってそのお腹になってるんだから!」
え、と思わずお腹を押さえるアルにによによと笑って、私は残りのハンバーガーに齧り付いた。うん、美味しい!
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ちなみに一位はヘラクレスさんちの28kg。チーズぷまい。
[2010.02.07]
[2010.02.07]