第一印象は「死にそうと言うより屍でした」
大丈夫ですか、と声を掛けてから一年。
長いようで短かった一年後、彼は再び現れた。
去年と同じような、死に掛けた形相で。
「…大丈夫?」
「…平気、だ」
「全くと言っていいほどそうは見えないけど」
「…」
彼も自覚してるんだろう、言い返す言葉は返ってこない。
そんなに体調悪いならわざわざアメリカくんだりまで来なければ良いのに。
背中を擦ってあげながら近くにあるベンチへと腰を掛けるように促すと、彼は渋々と言った表情で座り込んだ。
「ウチのアメリカに会いたいのは去年も散々聞いたから分かるけどさあ、会場までにぶっ倒れられると困るんだけど」
「分かってる!って言うか会いたい訳じゃ…」
「あー、はいはい。そうでしたねー」
ひらひらと手を振ってお決まりのツンデレ台詞を軽く受け流す。初対面の時にもばっちり発動されたから、スルーするのは簡単だ。
この人―アーサー=カークランドと言う人は、我が国アメリカの宗主国であったイギリスである。国自体にこんな身体があるなんて初めはびっくりしたけれど、慣れれば普通の人間とそう変わらない。
私はそんな慣れにも直ぐに対応出来る性格だったので、我がアメリカの身体、今はパーティ会場で大好きなアイスを頬張っているであろうアルフレッドに出会った時は、直ぐに仲良くなったものだ。
今では毎朝声を掛けてくれるような、ご近所さんの関係になっていたりする。
話を元に戻すけど、何故このアーサーはこれほどまでに体調を崩しながらもアメリカに来ているのか。それは今日が我が国にとっての記念日だから、である。
今から二百とちょっと前、アルフレッドはアーサーから独立した。それが今日の日付、七月四日。
インディペンデンス・デイと重なるように、アルフレッドの誕生日も今日で(否、きっと独立した日を自分で誕生日にしたんだろう)、彼らのような国の人々がアルフレッドを祝う為にパーティをしているのだ。
独立された側にとってはこんな風に体調が悪くなる位嫌な日なのかもしれないけど、それでもアーサーはアメリカまで足を運ぶ。
きっと弟として育ててきたその思いと、宗主国として支配してきた思いがぐっちゃぐちゃになって訳分かんなくなってるんだろうなあ。去年も会うか会わないかすっごい悩んでたし。すっぱり思い切りつけたらいいのに。
私みたいにポジティブに生きれば良いのに、と頬を突いてやったら、うるせえと特徴的な眉毛を歪ませた。
「でもそんなのだからアルフレッドにからかわれるんだよ。思いっきりぶつかって砕けたらいいじゃない。英国紳士だからそれ位容易いんじゃないの?」
「砕けたら意味ねえだろ!それとこれとは話が別と言うか…いや…別じゃないっていうか」
「うん、正直そのうじうじ感がたまらなくめんどくさい」
「正直過ぎるだろばかあ!」
だって本当の事なんだもの。嘘吐きは嫌いだから、私はいつも嘘は吐かない。
その所為で色々と言われる事はあるけれど、ペテン師と呼ばれるより全然良い。むしろ騙す方は悪なんだから、私がやっつけなくちゃいけないわ!
うんうん、と一人で納得して頷いていると、アーサーがこちらをじっと見て、それから吐息を吐いた。
「…お前アルに似てるな」
「そりゃあアルフレッドが私の国だもの。彼と居たら不思議とこうなっちゃうんだよ!」
「…はあ」
「え、なにその溜め息」
頭の中で考えていただけだった筈なのに、いつの間にか口に出してしまっていたらしい。
丸聞こえだったのがちょっと気になったけど、アーサーのふっかい溜め息の方が気になってぷす、と頬を膨らませる。呆れた溜め息、と言った所だろう、きっと。
むー、仕方のない話じゃないか。毎日正義とは、ヒーローとは何かを語り合っているんだから。アルフレッドと似たような性格になってしまったってさあ。
ぽこぽこ頭から湯気を出してアーサーの頬を突いてやる。私みたいにもちもちした肌では無かったけど、触り心地はアルフレッドの次位に良かった。
最初は避けようとしていたアーサーだったけど、直ぐにそれが無駄な行為だと悟って仕方なく為すがままになる。元々止める気が無かった私はそのままにこにこ笑って柔らかい頬をふにふにと突っつき続けた。
「気が済んだらとっとと帰れよ」
「んー、それまでにアーサーの体調が良くなってたらね」
「さっきよりは大分マシになってる。よし、帰れ」
「えっ、酷い…じゃあせめてパーティ会場に案内するだけでも」
「いらねえよ!」
ぐすん、と目の端に涙を浮かべて上目遣いで迫ってみるけれど、軽くあしらわれて鼻で笑われた。…泣き落としが効かない奴め。
ちょっと位は心配してあげているのに、ケチな人だなあ、全くこの人は。あーケチケチ、ケチのアーサーめー。
「聞こえてんぞ」
「はうっ」
口元を両手で覆うけどそれは遅かったようだ。によによと笑われて、その後に頭をぐしゃぐしゃに掻き回される。痛い、痛いー。
女の身嗜みの一つである髪の毛をぐちゃぐちゃにするなんて酷い…。今日も三十分掛けて整えたのに。
ピン止めが変な方向に曲がっているのが自分でも分かって、ぷす、と怒りながら両手で直していく。
アーサーはまだちょっとだけ笑っていたけれど、その顔色は彼の言う通り、大分良くなっているみたいだった。
私が見つけた時は本当に顔が青くてぶっ倒れるんじゃないかと思った位だったから、これ位良くなれば一人でも大丈夫だろう。
でも体調が良くなってもアルフレッドに会うかどうかで別問題が浮上してくる。会ってもプレゼント渡せるかどうかも分からないし。
本当にめんどくさい人だよね、この人って。まあそんな事言いつつアーサーに会ったのこれが二度目なんだけど。
初対面のインパクトが強過ぎて忘れようにも忘れられなくて今日まで来たと言う訳だ。思えばアルフレッドと仲が良いのにその兄分である彼に一度も会わないのも不思議だよね、あんな関係だから会わないのは至極当然かもしれないけど。
でもそろそろお互い仲良くして欲しいなあ。一応兄弟だったんだし。元が付いていたとしても家族だったんだから…と言うのは表向きで、ぶっちゃけ被害が来るのはこっちなんだからもう勘弁してほしいんだよね…。アルフレッドも機嫌悪いと怖いし。色んな意味で。
「少しずつでも良いんだけどなあ…でも言ってもきっと…無理なんだろうな」
「何か言ったか?」
「いえ何も。とにかく、体調良くなったんだったら早くパーティに参加して来なさいよー、道草食ってると終わっちゃうよ?」
「お前に言われなくても分かってるよ!」
だったらほらほら、と彼の腕を引っ張って、ベンチから立ち上がらせる。アーサーは凄く嫌そうな顔をしていたけど、パーティに行かなきゃいけないのは事実なので溜め息を吐きながら腰を上げた。
左手にはいつも渡そうか悩んでるプレゼントの紙袋を持っていて、ブランド名を見ると彼の国の有名な銘柄だった。
アルフレッドが好みそうな感じの袋では無い事は確かだけど、敢えて黙っとく。彼もそれは自覚してる筈だろうし、それでもその中の物を渡したいと思っているんだから、他人がとやかく言う筋合いはないだろう。
私も一応ご近所なんだからプレゼントあげたほうが良いかなあと悩んだけど、当の本人がいつものアイスで良いと言ったので指示通りに既に奢り済みだ。アーサーと違って安上がりだけど、要は気持ちの問題だから、ね!うんうん。
「で、なんでお前も付いてくるんだよ」
「え?駄目なの?」
「…別に駄目って訳じゃねえけど…付いてくる必要無いだろ?」
「まあそうだけど」
どうせ私は国同士のパーティには参加出来ないから、行っても意味は無い。けど飛び入りで参加したってアルフレッドはきっと怒らないだろう。むしろ喜びそうだ。
でも私がパーティに居ても各国の話の輪には入れないし、直ぐに飽きるのがオチだ。それなら街のパレードに参加した方が遥かに楽しい。
そう呟きながらアーサーを引っ張っていた手を緩めると、彼は首を傾げて頭に疑問符を浮かべていた。
「じゃあなんで来るんだよ」
「ひみつー」
「何だそれ」
「大した事じゃないから言わない。考えれば直ぐに分かる事だしね!」
くすくすと笑っていると、私の言葉に眉間に皺を寄せたアーサーは口をもごもごと動かして更に疑問符を増殖させていた。
何だよ、気になるじゃねか、と半ばムキになった言い方で迫ってくる彼が面白くて、微笑みが段々とによによした笑い方になってくる。
楽しい、ああ楽しい。普段周りにこんなに面白い人がアルフレッドしか居ないから、弄るのが楽しくてしょうがない。
噴き出しそうになるのを人差し指で押さえて、踵を返してくるりとアーサーの方へ振り返る。
「だって会場って私の家の近所だもんー」
「なんだよ勿体ぶる必要無い情報じゃねえか!」
「だから大した事無いって言ったじゃん!」
アルフレッドが近所に住んでるって事知ってるんだからそれ位気付いてよ!もうアーサーってば鈍感だなあ!
長いようで短かった一年後、彼は再び現れた。
去年と同じような、死に掛けた形相で。
「…大丈夫?」
「…平気、だ」
「全くと言っていいほどそうは見えないけど」
「…」
彼も自覚してるんだろう、言い返す言葉は返ってこない。
そんなに体調悪いならわざわざアメリカくんだりまで来なければ良いのに。
背中を擦ってあげながら近くにあるベンチへと腰を掛けるように促すと、彼は渋々と言った表情で座り込んだ。
「ウチのアメリカに会いたいのは去年も散々聞いたから分かるけどさあ、会場までにぶっ倒れられると困るんだけど」
「分かってる!って言うか会いたい訳じゃ…」
「あー、はいはい。そうでしたねー」
ひらひらと手を振ってお決まりのツンデレ台詞を軽く受け流す。初対面の時にもばっちり発動されたから、スルーするのは簡単だ。
この人―アーサー=カークランドと言う人は、我が国アメリカの宗主国であったイギリスである。国自体にこんな身体があるなんて初めはびっくりしたけれど、慣れれば普通の人間とそう変わらない。
私はそんな慣れにも直ぐに対応出来る性格だったので、我がアメリカの身体、今はパーティ会場で大好きなアイスを頬張っているであろうアルフレッドに出会った時は、直ぐに仲良くなったものだ。
今では毎朝声を掛けてくれるような、ご近所さんの関係になっていたりする。
話を元に戻すけど、何故このアーサーはこれほどまでに体調を崩しながらもアメリカに来ているのか。それは今日が我が国にとっての記念日だから、である。
今から二百とちょっと前、アルフレッドはアーサーから独立した。それが今日の日付、七月四日。
インディペンデンス・デイと重なるように、アルフレッドの誕生日も今日で(否、きっと独立した日を自分で誕生日にしたんだろう)、彼らのような国の人々がアルフレッドを祝う為にパーティをしているのだ。
独立された側にとってはこんな風に体調が悪くなる位嫌な日なのかもしれないけど、それでもアーサーはアメリカまで足を運ぶ。
きっと弟として育ててきたその思いと、宗主国として支配してきた思いがぐっちゃぐちゃになって訳分かんなくなってるんだろうなあ。去年も会うか会わないかすっごい悩んでたし。すっぱり思い切りつけたらいいのに。
私みたいにポジティブに生きれば良いのに、と頬を突いてやったら、うるせえと特徴的な眉毛を歪ませた。
「でもそんなのだからアルフレッドにからかわれるんだよ。思いっきりぶつかって砕けたらいいじゃない。英国紳士だからそれ位容易いんじゃないの?」
「砕けたら意味ねえだろ!それとこれとは話が別と言うか…いや…別じゃないっていうか」
「うん、正直そのうじうじ感がたまらなくめんどくさい」
「正直過ぎるだろばかあ!」
だって本当の事なんだもの。嘘吐きは嫌いだから、私はいつも嘘は吐かない。
その所為で色々と言われる事はあるけれど、ペテン師と呼ばれるより全然良い。むしろ騙す方は悪なんだから、私がやっつけなくちゃいけないわ!
うんうん、と一人で納得して頷いていると、アーサーがこちらをじっと見て、それから吐息を吐いた。
「…お前アルに似てるな」
「そりゃあアルフレッドが私の国だもの。彼と居たら不思議とこうなっちゃうんだよ!」
「…はあ」
「え、なにその溜め息」
頭の中で考えていただけだった筈なのに、いつの間にか口に出してしまっていたらしい。
丸聞こえだったのがちょっと気になったけど、アーサーのふっかい溜め息の方が気になってぷす、と頬を膨らませる。呆れた溜め息、と言った所だろう、きっと。
むー、仕方のない話じゃないか。毎日正義とは、ヒーローとは何かを語り合っているんだから。アルフレッドと似たような性格になってしまったってさあ。
ぽこぽこ頭から湯気を出してアーサーの頬を突いてやる。私みたいにもちもちした肌では無かったけど、触り心地はアルフレッドの次位に良かった。
最初は避けようとしていたアーサーだったけど、直ぐにそれが無駄な行為だと悟って仕方なく為すがままになる。元々止める気が無かった私はそのままにこにこ笑って柔らかい頬をふにふにと突っつき続けた。
「気が済んだらとっとと帰れよ」
「んー、それまでにアーサーの体調が良くなってたらね」
「さっきよりは大分マシになってる。よし、帰れ」
「えっ、酷い…じゃあせめてパーティ会場に案内するだけでも」
「いらねえよ!」
ぐすん、と目の端に涙を浮かべて上目遣いで迫ってみるけれど、軽くあしらわれて鼻で笑われた。…泣き落としが効かない奴め。
ちょっと位は心配してあげているのに、ケチな人だなあ、全くこの人は。あーケチケチ、ケチのアーサーめー。
「聞こえてんぞ」
「はうっ」
口元を両手で覆うけどそれは遅かったようだ。によによと笑われて、その後に頭をぐしゃぐしゃに掻き回される。痛い、痛いー。
女の身嗜みの一つである髪の毛をぐちゃぐちゃにするなんて酷い…。今日も三十分掛けて整えたのに。
ピン止めが変な方向に曲がっているのが自分でも分かって、ぷす、と怒りながら両手で直していく。
アーサーはまだちょっとだけ笑っていたけれど、その顔色は彼の言う通り、大分良くなっているみたいだった。
私が見つけた時は本当に顔が青くてぶっ倒れるんじゃないかと思った位だったから、これ位良くなれば一人でも大丈夫だろう。
でも体調が良くなってもアルフレッドに会うかどうかで別問題が浮上してくる。会ってもプレゼント渡せるかどうかも分からないし。
本当にめんどくさい人だよね、この人って。まあそんな事言いつつアーサーに会ったのこれが二度目なんだけど。
初対面のインパクトが強過ぎて忘れようにも忘れられなくて今日まで来たと言う訳だ。思えばアルフレッドと仲が良いのにその兄分である彼に一度も会わないのも不思議だよね、あんな関係だから会わないのは至極当然かもしれないけど。
でもそろそろお互い仲良くして欲しいなあ。一応兄弟だったんだし。元が付いていたとしても家族だったんだから…と言うのは表向きで、ぶっちゃけ被害が来るのはこっちなんだからもう勘弁してほしいんだよね…。アルフレッドも機嫌悪いと怖いし。色んな意味で。
「少しずつでも良いんだけどなあ…でも言ってもきっと…無理なんだろうな」
「何か言ったか?」
「いえ何も。とにかく、体調良くなったんだったら早くパーティに参加して来なさいよー、道草食ってると終わっちゃうよ?」
「お前に言われなくても分かってるよ!」
だったらほらほら、と彼の腕を引っ張って、ベンチから立ち上がらせる。アーサーは凄く嫌そうな顔をしていたけど、パーティに行かなきゃいけないのは事実なので溜め息を吐きながら腰を上げた。
左手にはいつも渡そうか悩んでるプレゼントの紙袋を持っていて、ブランド名を見ると彼の国の有名な銘柄だった。
アルフレッドが好みそうな感じの袋では無い事は確かだけど、敢えて黙っとく。彼もそれは自覚してる筈だろうし、それでもその中の物を渡したいと思っているんだから、他人がとやかく言う筋合いはないだろう。
私も一応ご近所なんだからプレゼントあげたほうが良いかなあと悩んだけど、当の本人がいつものアイスで良いと言ったので指示通りに既に奢り済みだ。アーサーと違って安上がりだけど、要は気持ちの問題だから、ね!うんうん。
「で、なんでお前も付いてくるんだよ」
「え?駄目なの?」
「…別に駄目って訳じゃねえけど…付いてくる必要無いだろ?」
「まあそうだけど」
どうせ私は国同士のパーティには参加出来ないから、行っても意味は無い。けど飛び入りで参加したってアルフレッドはきっと怒らないだろう。むしろ喜びそうだ。
でも私がパーティに居ても各国の話の輪には入れないし、直ぐに飽きるのがオチだ。それなら街のパレードに参加した方が遥かに楽しい。
そう呟きながらアーサーを引っ張っていた手を緩めると、彼は首を傾げて頭に疑問符を浮かべていた。
「じゃあなんで来るんだよ」
「ひみつー」
「何だそれ」
「大した事じゃないから言わない。考えれば直ぐに分かる事だしね!」
くすくすと笑っていると、私の言葉に眉間に皺を寄せたアーサーは口をもごもごと動かして更に疑問符を増殖させていた。
何だよ、気になるじゃねか、と半ばムキになった言い方で迫ってくる彼が面白くて、微笑みが段々とによによした笑い方になってくる。
楽しい、ああ楽しい。普段周りにこんなに面白い人がアルフレッドしか居ないから、弄るのが楽しくてしょうがない。
噴き出しそうになるのを人差し指で押さえて、踵を返してくるりとアーサーの方へ振り返る。
「だって会場って私の家の近所だもんー」
「なんだよ勿体ぶる必要無い情報じゃねえか!」
「だから大した事無いって言ったじゃん!」
アルフレッドが近所に住んでるって事知ってるんだからそれ位気付いてよ!もうアーサーってば鈍感だなあ!
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[2010.01.07]
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