雨模様のアフタヌーンティー
春の日差しを浴びる昼下がりのティータイム、悪くないシチュエーションに少なからず満足する。
ただ、出来れば室内ではなく色んな花が咲き乱れる庭先で楽しみたかった。
しかしそんな思いもむなしく、窓ガラス越しのイングリッシュガーデンには手が届かない。
晴れているのに、外に出れないこのもやもや感を、どうしてくれようか。
「…はぁ」
反射的に出る溜め息で余計に外が恋しくなる。けれど、出る事は許されない。
それは何故か?答えはそう、朝、テレビで見た天気予報が一番の原因だろうか。
今日の予報は晴れ時々雨。太陽が出ていたとしても雨の気配が捨てきれない曖昧な天気、らしい。
実際、ここに来るまでにひと雨降られてしまって、着いた時には全身しっとりと濡れていたのだ。
今はもう湿っている気配は無くなったが、またいつ雨が降り出すかは分からない。だから、外には出られないのだ。
…あんなに晴れているのに、なんか、くやしい。
むすりと頬を膨らませて腹いせとばかりに淹れられた紅茶を一気飲みする。今日の紅茶はアッサムとキャンディのブレンドティーらしい。
ストレートでは少々濃いそれはミルクを沢山入れて丁度良いまろやかさになっていて、飲む度に口の中でふわふわと良い香りが広がっていく。
紅茶を飲むだけで気分が落ち着く訳では無いのだけれど、無いよりはきっとマシだ。お腹がたぷたぷになってしまうけれど。
それに、飲む代わりに食べることをしてしまったらそれこそ太りそうだし。…否、正直のところ、お茶請けが意味を成していないから食べないって言うのもあるのだが。
どう見ても炭にしか見えない真っ黒な物体は場違いな位に小さなバスケットの中にこんもり盛られていて、背後には禍々しいオーラもおまけについている。
これの何処がお茶請けに見えるって言うんだ。モザイクを掛けてもこの異様な黒さはどうしようもない!
作った本人はスコーンだと言い張っているのだが、私には食べ物にすら見えなかった。流石にそう言ってしまうのは失礼だと思うので敢えて口には出さないけれど。
「でも言わなければ延々とこの炭…らしき物体を食べさせられる羽目になるんだよね」
それだけは何としても拒否したいのだが…今の所、打開策などは全く浮かんでいないのでお先は真っ暗状態だ。
折角美味しい紅茶を飲んでいるのに、どうしてこんなにも暗い気持ちにならないといけないのだろうか。あー、やだやだ!天気が悪いとネガティブな方向にしか考えられないじゃないか!
ぎゅっと額の中心に深い皺を寄せてまた紅茶を呷る。けれど、今度はあの香り豊かな液体を飲み込むことは出来なかった。ああ、ついに紅茶にも見放されてしまった。
空になってしまったカップをかしゃんと音を立ててテーブルに放り出して、仕方なくソファの背に頭を預ける。
ぐあー、なんて変な声を出しながらもやもやした気持ちを吐き出していたら、漸く私の声に答える人が現れた。遅い。
「乱暴に扱うなよ、割れたらどうするんだ」
「わーかってまーすよー」
「声に全く誠意が感じられねえ」
のっけからなんて失礼な、でも事実だから反論はしない。いや、もちろん取り扱い的にはちゃんと気を使っているのだけれど。
ぷくりと頬を膨らませながら眉間に皺を寄せる彼…アーサーさん、の方へと目を向ける。手には綺麗な金縁のお盆、乗せられているものはこの位置からは見えないけれど、きっと自分の紅茶だろう。
この人、どうして紅茶を淹れるのは上手いのに、あれほどまでに料理の才能が無いのだろう。そのギャップの差に思わず尊敬してしまう位だよ、全く。
早く自分の料理がまずいって事に気付いてくれればいいのに。今後もずっと続けられたら私の命も危うくなってくるかもしれない。それだけは本当に勘弁してほしい。
私だってやりたい事の一つや二つあるんだから、若い芽を摘み取る行為はしないでください!切実に!
って、物凄く言ってやりたいのに、悲しきかな、私の口はその真逆の言葉を紡いでいく。今日もおいしいスコーンですね、なんて。
お世辞にしたって真っ黒な禍々しい物体に対して言う台詞じゃ無い事は分かっているけれど、でも、言わないとこの人は直ぐに傷付いてしまうのだ。
きっと変な笑い方をしながら「そうか」なんて言っちゃうんだろうな。下手したら泣いてしまうかもしれない。
私はそんな顔させたくてここに来てる訳じゃあないし、泣かせたい訳でもないから結局いつもいつも、美味しくない黒いスコーンを口に放り込むのだ。
今日だって、ほら、また期待の眼差しでこちらを見ているじゃないか。こんなの逃げられる訳がない。
「遠慮せずに食えよ」
「…いただきます…」
止めの一発を喰らってしまったら、もう私には食べる以外に選択肢は無いんだ。ああ、胃が痛い。
彼にばれないようにカップ中で零した深い吐息は新しく淹れた紅茶が受け止める。波立つそれを勢いよく呷って、私は渋々黒い物体に手を伸ばした。
今日も相変わらず黒いスコーンは美味しくなくて、口に放り込んだ瞬間に後悔の味が広がった、と言うのが私の感想。
一瞬眉間に皺を寄せてしまいそうになったけれど、なんとか持ちこたえて、もごもごと口を動かす。いつもの変な食感も変わらない。期待の眼差しも変わらない。
紅茶で喉の奥に流し込んで、ふっと息を吐き出す。うん。
「おいしいね」
「そうか」
「不思議な味だけどね」
声が引き攣った気がしたが、どうやら彼には気付かれていないようだった。なんだそれ、と笑い返されて、心の中で「そのままの意味だよ」と返答しておく。
最初の一口が終わってしまえば後はもう慣れに等しい。紅茶を注いで貰いながら、仕方なくスコーンを手に取る。黒い。
じゃりじゃりと食べ物らしくない音を立てながらティータイムは進む。ちらりと横目で外を見たら、先程よりも緑の色が陰っているように思えた。
やがて静かだった室内にぽつぽつと雨粒が落ちる音が飛び込んできて、徐々にその音は大きくなっていった。
「あーまた降ってきた…」
「どうせ直ぐに止むだろ」
「そうだろうけどさ…折角綺麗な花が咲いてるのにこれじゃあ散りそう」
「この位の雨じゃ散らねえよ」
アーサーさんはそう言いながら窓の方へと視線を傾けた。ガラス越しの緑はすっかり若葉色から深緑へと変わってどんよりとした面白味の無い姿になっている。
そこにぽつぽつと赤や白の薔薇が咲いていて、遠目でも一際目立って見えた。
…本当ならばもっと近くで見れていた筈なのに。未練がましく文句を言ったって空の機嫌が直る筈もないのだけれど、何度でも繰り返し心の中で呟いた。
これだけ立派に咲き誇る薔薇達をお目に掛かるなんてそう多くはないのだ。今まで見てきた中で、アーサーさんの家の庭が一番綺麗で、丁寧で、それでいて落ち着いた雰囲気だった。正に、私が見たかったイングリッシュガーデンそのものだったんだ。
アーサーさん本人は別に珍しいものでもなんでもない、と言うけれど、それは自宅であり自分で世話をしているからであって、他人から見るとそれはもう凄い庭なのだ。
毎日来ることは叶わないけれど、出来る事ならいつまでだって見ていたい風景。お気に入りの場所、それが、この家の庭。
こんな素敵な庭でアフタヌーンティーを楽しむ事が出来たのならば、それはもう、至福の一時に間違いない。
ぼんやりと絵や本で見た事のある世界を頭の中で描写しながらふと悦に浸る。毎年やりたい!とは思うのだけれど、都合が合わなかったり天気が悪かったりで結局一度も実現出来ていないのが現状だった。
今度こそは、と思って朝から見たくもない堅苦しいニュースを点けていたのに。
「もしかして私になにか悪いものでも取り憑いてたりしてるとか…?ジャパニーズホラー的な…?」
「んなもん憑いてねえよ」
「じゃあなんで一回も外でティータイム出来ないの?…絶対おかしい。何かあるとしか考えられない」
「別に今の季節じゃ無くたって良いじゃねえか。薔薇は春以外でも咲くだろ」
「それはそうだけど…やっぱり、一番綺麗な時期に見たいじゃない」
若葉が生い茂る緑の季節だからこそ、薔薇の色彩は映える。他の季節だってもちろん綺麗なんだけど、やっぱり私はこの時期が一番好きだ。
小声で呟いた言葉が消えたあと、ワンテンポ置いてからふっと前から微かに笑う声が聞こえた。顔を上げると、アーサーさんが目を伏せながら笑っていた。
いつもは馬鹿にしたように鼻で笑うのに、時々こんな風に本当に嬉しそうに笑うから、ちょっとだけ私はびっくりしたりするのだ。普段とのギャップと言うか、なんというか。
照れる時だってツンツンデレデレなのに、どうしてこんな時だけ大人びた笑い方をするんだろう。実際私よりもうんと年上なのだから当たり前なんだろうけれど(だっていつも子供みたいな怒り方をするから同年代くらいに錯覚してしまうのだ)。
なんだか妙に照れくさくなってしまって何故か私の方から顔を背けてしまう。決して見惚れてしまったとかそう言うのじゃないから。ええ、決して。
「まあ、お前がそうしたいなら俺は別に構わねえけどな」
「…じゃあまた来てもいいってこと?」
「紅茶くらいは出してやる」
「……いつもこれ位デレてくれたらなあ…」
「なにか言ったか?」
「ううん、何も」
うっかり心の声が口から出てしまって誤魔化すように手に取ったスコーンを頬張る。じゃりじゃりしてて味はよく分からない。
…って、あれ。今この人は「紅茶くらいは出してやる」と言わなかったか?…その中にはお茶請けの要素は無い筈だ。と言う事は…イコール、スコーンを食べなくてすむ…?
つまり、漸くこの炭地獄から解放される?…や、やった!これで私の生命は保たれ―。
「ああ、もちろんちゃんとスコーンも用意してやるから安心しろよ」
「…えっ」
前言撤回、やっぱりこの人デレても駄目だった。
ただ、出来れば室内ではなく色んな花が咲き乱れる庭先で楽しみたかった。
しかしそんな思いもむなしく、窓ガラス越しのイングリッシュガーデンには手が届かない。
晴れているのに、外に出れないこのもやもや感を、どうしてくれようか。
「…はぁ」
反射的に出る溜め息で余計に外が恋しくなる。けれど、出る事は許されない。
それは何故か?答えはそう、朝、テレビで見た天気予報が一番の原因だろうか。
今日の予報は晴れ時々雨。太陽が出ていたとしても雨の気配が捨てきれない曖昧な天気、らしい。
実際、ここに来るまでにひと雨降られてしまって、着いた時には全身しっとりと濡れていたのだ。
今はもう湿っている気配は無くなったが、またいつ雨が降り出すかは分からない。だから、外には出られないのだ。
…あんなに晴れているのに、なんか、くやしい。
むすりと頬を膨らませて腹いせとばかりに淹れられた紅茶を一気飲みする。今日の紅茶はアッサムとキャンディのブレンドティーらしい。
ストレートでは少々濃いそれはミルクを沢山入れて丁度良いまろやかさになっていて、飲む度に口の中でふわふわと良い香りが広がっていく。
紅茶を飲むだけで気分が落ち着く訳では無いのだけれど、無いよりはきっとマシだ。お腹がたぷたぷになってしまうけれど。
それに、飲む代わりに食べることをしてしまったらそれこそ太りそうだし。…否、正直のところ、お茶請けが意味を成していないから食べないって言うのもあるのだが。
どう見ても炭にしか見えない真っ黒な物体は場違いな位に小さなバスケットの中にこんもり盛られていて、背後には禍々しいオーラもおまけについている。
これの何処がお茶請けに見えるって言うんだ。モザイクを掛けてもこの異様な黒さはどうしようもない!
作った本人はスコーンだと言い張っているのだが、私には食べ物にすら見えなかった。流石にそう言ってしまうのは失礼だと思うので敢えて口には出さないけれど。
「でも言わなければ延々とこの炭…らしき物体を食べさせられる羽目になるんだよね」
それだけは何としても拒否したいのだが…今の所、打開策などは全く浮かんでいないのでお先は真っ暗状態だ。
折角美味しい紅茶を飲んでいるのに、どうしてこんなにも暗い気持ちにならないといけないのだろうか。あー、やだやだ!天気が悪いとネガティブな方向にしか考えられないじゃないか!
ぎゅっと額の中心に深い皺を寄せてまた紅茶を呷る。けれど、今度はあの香り豊かな液体を飲み込むことは出来なかった。ああ、ついに紅茶にも見放されてしまった。
空になってしまったカップをかしゃんと音を立ててテーブルに放り出して、仕方なくソファの背に頭を預ける。
ぐあー、なんて変な声を出しながらもやもやした気持ちを吐き出していたら、漸く私の声に答える人が現れた。遅い。
「乱暴に扱うなよ、割れたらどうするんだ」
「わーかってまーすよー」
「声に全く誠意が感じられねえ」
のっけからなんて失礼な、でも事実だから反論はしない。いや、もちろん取り扱い的にはちゃんと気を使っているのだけれど。
ぷくりと頬を膨らませながら眉間に皺を寄せる彼…アーサーさん、の方へと目を向ける。手には綺麗な金縁のお盆、乗せられているものはこの位置からは見えないけれど、きっと自分の紅茶だろう。
この人、どうして紅茶を淹れるのは上手いのに、あれほどまでに料理の才能が無いのだろう。そのギャップの差に思わず尊敬してしまう位だよ、全く。
早く自分の料理がまずいって事に気付いてくれればいいのに。今後もずっと続けられたら私の命も危うくなってくるかもしれない。それだけは本当に勘弁してほしい。
私だってやりたい事の一つや二つあるんだから、若い芽を摘み取る行為はしないでください!切実に!
って、物凄く言ってやりたいのに、悲しきかな、私の口はその真逆の言葉を紡いでいく。今日もおいしいスコーンですね、なんて。
お世辞にしたって真っ黒な禍々しい物体に対して言う台詞じゃ無い事は分かっているけれど、でも、言わないとこの人は直ぐに傷付いてしまうのだ。
きっと変な笑い方をしながら「そうか」なんて言っちゃうんだろうな。下手したら泣いてしまうかもしれない。
私はそんな顔させたくてここに来てる訳じゃあないし、泣かせたい訳でもないから結局いつもいつも、美味しくない黒いスコーンを口に放り込むのだ。
今日だって、ほら、また期待の眼差しでこちらを見ているじゃないか。こんなの逃げられる訳がない。
「遠慮せずに食えよ」
「…いただきます…」
止めの一発を喰らってしまったら、もう私には食べる以外に選択肢は無いんだ。ああ、胃が痛い。
彼にばれないようにカップ中で零した深い吐息は新しく淹れた紅茶が受け止める。波立つそれを勢いよく呷って、私は渋々黒い物体に手を伸ばした。
今日も相変わらず黒いスコーンは美味しくなくて、口に放り込んだ瞬間に後悔の味が広がった、と言うのが私の感想。
一瞬眉間に皺を寄せてしまいそうになったけれど、なんとか持ちこたえて、もごもごと口を動かす。いつもの変な食感も変わらない。期待の眼差しも変わらない。
紅茶で喉の奥に流し込んで、ふっと息を吐き出す。うん。
「おいしいね」
「そうか」
「不思議な味だけどね」
声が引き攣った気がしたが、どうやら彼には気付かれていないようだった。なんだそれ、と笑い返されて、心の中で「そのままの意味だよ」と返答しておく。
最初の一口が終わってしまえば後はもう慣れに等しい。紅茶を注いで貰いながら、仕方なくスコーンを手に取る。黒い。
じゃりじゃりと食べ物らしくない音を立てながらティータイムは進む。ちらりと横目で外を見たら、先程よりも緑の色が陰っているように思えた。
やがて静かだった室内にぽつぽつと雨粒が落ちる音が飛び込んできて、徐々にその音は大きくなっていった。
「あーまた降ってきた…」
「どうせ直ぐに止むだろ」
「そうだろうけどさ…折角綺麗な花が咲いてるのにこれじゃあ散りそう」
「この位の雨じゃ散らねえよ」
アーサーさんはそう言いながら窓の方へと視線を傾けた。ガラス越しの緑はすっかり若葉色から深緑へと変わってどんよりとした面白味の無い姿になっている。
そこにぽつぽつと赤や白の薔薇が咲いていて、遠目でも一際目立って見えた。
…本当ならばもっと近くで見れていた筈なのに。未練がましく文句を言ったって空の機嫌が直る筈もないのだけれど、何度でも繰り返し心の中で呟いた。
これだけ立派に咲き誇る薔薇達をお目に掛かるなんてそう多くはないのだ。今まで見てきた中で、アーサーさんの家の庭が一番綺麗で、丁寧で、それでいて落ち着いた雰囲気だった。正に、私が見たかったイングリッシュガーデンそのものだったんだ。
アーサーさん本人は別に珍しいものでもなんでもない、と言うけれど、それは自宅であり自分で世話をしているからであって、他人から見るとそれはもう凄い庭なのだ。
毎日来ることは叶わないけれど、出来る事ならいつまでだって見ていたい風景。お気に入りの場所、それが、この家の庭。
こんな素敵な庭でアフタヌーンティーを楽しむ事が出来たのならば、それはもう、至福の一時に間違いない。
ぼんやりと絵や本で見た事のある世界を頭の中で描写しながらふと悦に浸る。毎年やりたい!とは思うのだけれど、都合が合わなかったり天気が悪かったりで結局一度も実現出来ていないのが現状だった。
今度こそは、と思って朝から見たくもない堅苦しいニュースを点けていたのに。
「もしかして私になにか悪いものでも取り憑いてたりしてるとか…?ジャパニーズホラー的な…?」
「んなもん憑いてねえよ」
「じゃあなんで一回も外でティータイム出来ないの?…絶対おかしい。何かあるとしか考えられない」
「別に今の季節じゃ無くたって良いじゃねえか。薔薇は春以外でも咲くだろ」
「それはそうだけど…やっぱり、一番綺麗な時期に見たいじゃない」
若葉が生い茂る緑の季節だからこそ、薔薇の色彩は映える。他の季節だってもちろん綺麗なんだけど、やっぱり私はこの時期が一番好きだ。
小声で呟いた言葉が消えたあと、ワンテンポ置いてからふっと前から微かに笑う声が聞こえた。顔を上げると、アーサーさんが目を伏せながら笑っていた。
いつもは馬鹿にしたように鼻で笑うのに、時々こんな風に本当に嬉しそうに笑うから、ちょっとだけ私はびっくりしたりするのだ。普段とのギャップと言うか、なんというか。
照れる時だってツンツンデレデレなのに、どうしてこんな時だけ大人びた笑い方をするんだろう。実際私よりもうんと年上なのだから当たり前なんだろうけれど(だっていつも子供みたいな怒り方をするから同年代くらいに錯覚してしまうのだ)。
なんだか妙に照れくさくなってしまって何故か私の方から顔を背けてしまう。決して見惚れてしまったとかそう言うのじゃないから。ええ、決して。
「まあ、お前がそうしたいなら俺は別に構わねえけどな」
「…じゃあまた来てもいいってこと?」
「紅茶くらいは出してやる」
「……いつもこれ位デレてくれたらなあ…」
「なにか言ったか?」
「ううん、何も」
うっかり心の声が口から出てしまって誤魔化すように手に取ったスコーンを頬張る。じゃりじゃりしてて味はよく分からない。
…って、あれ。今この人は「紅茶くらいは出してやる」と言わなかったか?…その中にはお茶請けの要素は無い筈だ。と言う事は…イコール、スコーンを食べなくてすむ…?
つまり、漸くこの炭地獄から解放される?…や、やった!これで私の生命は保たれ―。
「ああ、もちろんちゃんとスコーンも用意してやるから安心しろよ」
「…えっ」
前言撤回、やっぱりこの人デレても駄目だった。
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企画に提出させて頂いた物です。ツンでもデレでも結局スコーンは食べさせられます。
[2011.07.21]
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