Attention!
※くるんネタ。別にえろくは無いけどそう言うネタなので注意。
鈍感フォルテシモ
お国柄と言うのか、それぞれの国に住んでいる人にはそれぞれ違った特徴があって、例えば眉毛が濃かったり、妙な威圧感があったり、何かが生えてたり、様々なバリエーションが存在している。
中でも多いのは髪の毛の一部が跳ねてたり、くるりとカールしていたりする事だ。それが一つのチャームポイントになっていたり、その特徴で国を見分けられたりするので持っていても損は無い。
特徴が無い国もあれば、このように激しい自己主張する特徴を持っている国もある。かく言う私もその自己主張が激しい特徴を持つ一人だ。
くるんと横から生えるアホ毛は私の動きに合わせてゆらゆらと揺れている。綺麗な渦巻き状になっているそれは、イタリア人が持つ特徴だった。
このくるんは生まれた時から生えている物で、寝癖のようにちょっとした事では元の髪には戻ってくれない。
櫛で梳こうにも、無理に触ると痛いし、引っ張ると普通に生えている髪の毛よりも激痛が頭に響くので放っておく事しか出来ないのだ(特徴なのだから当たり前かもしれないけど)。
しかも一番普通の髪の毛と違う所は、自らの感情によって形状が変化したりする事で、怯えればぶるぶると震えたり、気分が良ければ渦巻き状の部分がハートの形になったりする。
神経が繋がっているんじゃないかと言う位、このくるんは面白い物で、とても繊細なアホ毛なのだ。
だから扱いは大切に、優しくしなければならないのだが―…。
「そういや、このアホ毛ってロヴィーノにもフェリちゃんにも生えてる奴なん?かわええなあ」
「ひゃっ!?」
よりにもよってこの鈍感で空気の読めないお方が興味を示されたようです。
私がびくりと肩を震わせた事に気が付いていないのか、陽気な微笑みを向けてくるアントーニョさんは容赦なく私のくるんを触ってくる。
最初は摘むように軽く引っ張られたけれど、徐々に髪質を確かめるように指の腹で転がされて顔が熱くなる。
や、と首をぷるぷる振ってアントーニョさんの手から逃れようとするが、男と女の差は中々埋まらない。
私はイタリアの女なんだから、もっとびしっとしてなきゃならないのに…どうしてこう、鈍感な人に敏感な部分を触られちゃうかなあ!って、うひゃあ、アントーニョさん、そこ駄目ですってば!
「ち、ぎぎ…ひゃんっ」
「ロヴィもそんな反応してたけどこれって結局何なんかなあ」
「ふぇ?ろ、ロヴィーノさんにもやったんですか!」
「だってなんか引っ張りたくなるやろー?」
これ、ともう一度引っ張られるくるんに息が上がる。いけない、ここは会議室だと言うのにこんな痴態を晒してしまうなんて!
摘まれたくるんが私の身体と連動するかのようにぷるぷる震えだして、アントーニョさんは面白がるように渦巻きの部分を突っついた。
頭を振って拒絶しても、彼の手は動きそうにない。それどころかどんどんエスカレートしているように見える。
本当にこれ以上はちょっと駄目ですって、本当に、ちょ、ちょっと。
「アン、トーニョ、さ…ほんと、もうやめ…」
「ん?っとと、…ちゃん?どうしたん?」
「あ、ああアントーニョさんのばか!金輪際くるんには触らないで下さい!へんたい!」
鈍いにも程があるって言う位、アントーニョさんはきょとんとした表情で顔を赤らめた私に問いかける。
ぱっと彼がくるんを放した隙に私は後ろに回り込んで髪の毛に手が届かない位置に逃げ込んだ。出来ればこの場から離れたかったのだが、今は生憎と仕事中なので易々と立ち去る事は不可能だった。
早く終わって欲しいと願いながら上がった息を必死に落ち着かせ、深呼吸を数回繰り返す。その間にもアントーニョさんが私を呼んでいたけど軽く無視してやった。
こんな公衆の面前で(と言っても誰も振り向く者は居なかったけど)何てことをしてくれたんだ、この人は。
ぽこぽこと頭から湯気を出して震え、緩み掛けた涙腺を引きしめる。ああもう、早い所逃げ出してしまいたい。上司は何をしてるんだろう、全く。
頭に浮かぶほにゃりとした笑顔をした上司に心の中で悪態を吐く。直ぐ横のドアの奥ではきっとスペインのお偉いさんと上司が仲良く談笑しているに違いない。
こっちは今にも逃げ出したい状況だと言うのに。何だかとっても泣きだしたい気分だ。もう、全部アントーニョさんが行き成りくるんを引っ張ってきた所為だ。
ぺし、とアントーニョさんの分厚い背中を叩いてはしたない暴言の数々を吐き散らしていく。でもやっぱり私の弱い力じゃあ、アントーニョさんの身体はびくともしなかった。
「ばかばかぁ…!うぁ、っ」
「そんなに嫌なん?これ触られんのって」
「嫌ですってば…、っ!」
だからまた掴んでいるそれをいい加減放して下さい、と再び真っ赤になる顔を伏せて私は叫んだ。
やはり後ろに回り込むだけじゃ、鈍感の魔の手から逃れる事は出来なかったらしい。引っ張られるアホ毛に喉がひゅっと引き攣った。
どうしてこんなに酷い状態の私を見て平然としていられるんだろう、もしかしてわざとやっているんじゃないかと思う位、アントーニョさんは私の変化に気付いていないようだ。
歯を食いしばって与えられる刺激に耐えるけれど、中々うまくいかない。やばい、背中がぞくぞくしてきた。
色んな所から色んな物が出てきそうな気がする。涙は既に滲み始めていて、視界はぼけて人と地面との境界線が酷く曖昧になっていた。
「なあ、これ何なん?めっちゃ気になるわー」
「は、ふ」
未だにくるんが何を象徴しているのか理解出来ていないアントーニョさんは、渦巻き部分がくしゃくしゃになっている事もお構いなしに髪の毛を撫でてくる。
どうやら私が答えを言わなければいつまで経ってもこの人はアホ毛が何なのか、分からないんだろうな。
でも直球で答えを言えるほど、私はオープンな性格をしている訳ではなかった。だって、その、言い難いじゃないか。
私が変な反応をした時点で察してほしいのに、女の子である私に破廉恥な事を暴露しろと?恥じらいを捨てされと言うのか、この鈍感は。
…そんな事、出来る訳無いじゃないか。これでも昔は清楚で良い子とか言われていたのに…え、今?それはまた別の話と言う事で。
とにかく、くるんの正体が何なのかを私の口から説明する事は出来ない。ぷるぷると首を振って口を噤む事しか出来ないのだ。
ああもう、誰でも良いからこの鈍感な方を私から引き剥がして下さい。と言うか上司はまだなのか、もう終わってもいい筈の時間なんだけど!
ぼろりと零れ落ちる涙を掌で拭い、アントーニョさんを見上げる。そこで漸く私が泣いている事に気付いたのか、ぎょっと目を真ん丸くする彼が目の前に居た。遅い。
「え、え?なんで泣いてるん?そんな痛かったん?」
「うぅ…うううー」
「ごめんって、なあ、謝るから泣かんといて…じゃないとロ」
「あれ?アントーニョ兄ちゃんと…?どうかしたの?」
「…あー、見つかってもうた」
アントーニョさんが言い掛けた言葉を遮って然程遠くない場所から聞きなれた声が聞こえた。
柔らかい口調のその声に肩を震わせて振り返る。頭の上で跳ねたのは、私と同じ渦巻き状のアホ毛だった。
フェリシアーノさん、と彼の名前を呟くと、呼ばれた彼はアホ毛を揺らして小さく「ヴェ」と鳴き声とも呼べる謎の単語を発する。きょとん、と首を傾げる仕草はまるで小動物のような可愛さだ。
けどその顔も私が目を真っ赤にしている事に気付くと眉を顰めて駆け寄ってきてくれる。ふわりと花の香りが懐かしく思えて、またぶわっと胸の奥から込み上がってくるものがあった。
ぽすりとフェリシアーノさんの胸に駆け込んでぎゅっと服を握りしめると、彼は子供をあやすように頭を優しく撫でてくれる。あったかい。
包み込まれる優しい気持ちにさっきまでのもやもやとした気分が徐々に薄くなっていく。こんなに安らかな気分になるのはきっとフェリシアーノさんが私の母国だからに違いない。
落ち着いた、と首を傾げる彼にこくりと小さく頷いて目の端に溜まっていた涙を拭われると、また遠くない場所からひょっこりと新しいアホ毛が顔を覗かせた。
「てめ、アントーニョ!なに泣かせてんだ!」
「ロヴィ!ちが、これにはちょっとした訳が」
「どうせてめーの鈍感の所為だろうが!」
「ちょっ…話聞いてー!」
フェリシアーノさんとは逆の方向に跳ねたくるんがぶるぶると震えて、ロヴィーノさんは問答無用とばかりにアントーニョさんに得意技である頭突きをお見舞いする。
鈍い音が辺りに響いて痛そうだな、とは思ったけど止めることはしなかった。だってそれ相応の事をしでかしたんだもの、この鈍感親分は。
それよりもフェリシアーノさんとロヴィーノさん、二人がこの場所に居る事に聊か疑問に思う。ここはイタリアでも無ければスペインでもない場所だからだ。
そして私は忙しい二人の代理として仕事に来ている訳で、ここに彼等が居る筈無いのだ。でも私を抱きしめている腕は幻覚などでは無いし、アントーニョさんに頭突きを噛ましたのも本物のロヴィーノさんだ。
じゃあどうして、と首を傾げてフェリシアーノさんを見やると、私の聞きたい事が分かったのか、彼はぱちりとウィンクして二人に聞こえないように耳打ちをした。
「俺達の大事なが泣いてたから飛んできたんだよ」
「…あり、がとう。でも仕事は?」
「えっ…えー、そこは目を瞑る所だよ、」
「ほったらかして来たんですね…もう、ルートヴィッヒさんがまた怒りますよ」
こっそりと告げられた言葉に苦笑して、止まないロヴィーノさんの罵声に耳を傾ける。さっき私が言った暴言よりも更に酷い放送禁止用語が沢山並べられていて、思わず耳を塞ぎたくなったのは言うまでも無い。
流石にそろそろ止めてあげなければアントーニョさんが可哀想だ。しゅん、と縮こまってしまっている彼も事の重大さが分かったのか、ロヴィーノさんの言われるがままになってしまっているし。
フェリシアーノさんにお礼を言って拘束を解いて貰ってアントーニョさんに駆け寄ると、今度はアントーニョさんが綺麗な緑の瞳を潤ませてぼろりと涙を滲ませたのでびっくりした。そしてぎゅっと抱きしめられてごめんなああ、と一言。
きっとまだどうして私が泣いたのか分かっていないと思うけれど、ここまで謝られたら許すしかないじゃないか。
ぽんぽん、とフェリシアーノさんがしてくれたみたいにアントーニョさんの頭を撫でて、落ち着かせるように微笑みかける。抱きしめられる力が強くなってちょっと痛かった。
「ああありがとうなああ、ちゃんほんま大好きやわー!」
「あー、はいはい」
それは分かりましたからそろそろ放してくれないとまたロヴィーノさんに怒られますよ。ほら、後ろからオーラが漂ってきてるし。
中でも多いのは髪の毛の一部が跳ねてたり、くるりとカールしていたりする事だ。それが一つのチャームポイントになっていたり、その特徴で国を見分けられたりするので持っていても損は無い。
特徴が無い国もあれば、このように激しい自己主張する特徴を持っている国もある。かく言う私もその自己主張が激しい特徴を持つ一人だ。
くるんと横から生えるアホ毛は私の動きに合わせてゆらゆらと揺れている。綺麗な渦巻き状になっているそれは、イタリア人が持つ特徴だった。
このくるんは生まれた時から生えている物で、寝癖のようにちょっとした事では元の髪には戻ってくれない。
櫛で梳こうにも、無理に触ると痛いし、引っ張ると普通に生えている髪の毛よりも激痛が頭に響くので放っておく事しか出来ないのだ(特徴なのだから当たり前かもしれないけど)。
しかも一番普通の髪の毛と違う所は、自らの感情によって形状が変化したりする事で、怯えればぶるぶると震えたり、気分が良ければ渦巻き状の部分がハートの形になったりする。
神経が繋がっているんじゃないかと言う位、このくるんは面白い物で、とても繊細なアホ毛なのだ。
だから扱いは大切に、優しくしなければならないのだが―…。
「そういや、このアホ毛ってロヴィーノにもフェリちゃんにも生えてる奴なん?かわええなあ」
「ひゃっ!?」
よりにもよってこの鈍感で空気の読めないお方が興味を示されたようです。
私がびくりと肩を震わせた事に気が付いていないのか、陽気な微笑みを向けてくるアントーニョさんは容赦なく私のくるんを触ってくる。
最初は摘むように軽く引っ張られたけれど、徐々に髪質を確かめるように指の腹で転がされて顔が熱くなる。
や、と首をぷるぷる振ってアントーニョさんの手から逃れようとするが、男と女の差は中々埋まらない。
私はイタリアの女なんだから、もっとびしっとしてなきゃならないのに…どうしてこう、鈍感な人に敏感な部分を触られちゃうかなあ!って、うひゃあ、アントーニョさん、そこ駄目ですってば!
「ち、ぎぎ…ひゃんっ」
「ロヴィもそんな反応してたけどこれって結局何なんかなあ」
「ふぇ?ろ、ロヴィーノさんにもやったんですか!」
「だってなんか引っ張りたくなるやろー?」
これ、ともう一度引っ張られるくるんに息が上がる。いけない、ここは会議室だと言うのにこんな痴態を晒してしまうなんて!
摘まれたくるんが私の身体と連動するかのようにぷるぷる震えだして、アントーニョさんは面白がるように渦巻きの部分を突っついた。
頭を振って拒絶しても、彼の手は動きそうにない。それどころかどんどんエスカレートしているように見える。
本当にこれ以上はちょっと駄目ですって、本当に、ちょ、ちょっと。
「アン、トーニョ、さ…ほんと、もうやめ…」
「ん?っとと、…ちゃん?どうしたん?」
「あ、ああアントーニョさんのばか!金輪際くるんには触らないで下さい!へんたい!」
鈍いにも程があるって言う位、アントーニョさんはきょとんとした表情で顔を赤らめた私に問いかける。
ぱっと彼がくるんを放した隙に私は後ろに回り込んで髪の毛に手が届かない位置に逃げ込んだ。出来ればこの場から離れたかったのだが、今は生憎と仕事中なので易々と立ち去る事は不可能だった。
早く終わって欲しいと願いながら上がった息を必死に落ち着かせ、深呼吸を数回繰り返す。その間にもアントーニョさんが私を呼んでいたけど軽く無視してやった。
こんな公衆の面前で(と言っても誰も振り向く者は居なかったけど)何てことをしてくれたんだ、この人は。
ぽこぽこと頭から湯気を出して震え、緩み掛けた涙腺を引きしめる。ああもう、早い所逃げ出してしまいたい。上司は何をしてるんだろう、全く。
頭に浮かぶほにゃりとした笑顔をした上司に心の中で悪態を吐く。直ぐ横のドアの奥ではきっとスペインのお偉いさんと上司が仲良く談笑しているに違いない。
こっちは今にも逃げ出したい状況だと言うのに。何だかとっても泣きだしたい気分だ。もう、全部アントーニョさんが行き成りくるんを引っ張ってきた所為だ。
ぺし、とアントーニョさんの分厚い背中を叩いてはしたない暴言の数々を吐き散らしていく。でもやっぱり私の弱い力じゃあ、アントーニョさんの身体はびくともしなかった。
「ばかばかぁ…!うぁ、っ」
「そんなに嫌なん?これ触られんのって」
「嫌ですってば…、っ!」
だからまた掴んでいるそれをいい加減放して下さい、と再び真っ赤になる顔を伏せて私は叫んだ。
やはり後ろに回り込むだけじゃ、鈍感の魔の手から逃れる事は出来なかったらしい。引っ張られるアホ毛に喉がひゅっと引き攣った。
どうしてこんなに酷い状態の私を見て平然としていられるんだろう、もしかしてわざとやっているんじゃないかと思う位、アントーニョさんは私の変化に気付いていないようだ。
歯を食いしばって与えられる刺激に耐えるけれど、中々うまくいかない。やばい、背中がぞくぞくしてきた。
色んな所から色んな物が出てきそうな気がする。涙は既に滲み始めていて、視界はぼけて人と地面との境界線が酷く曖昧になっていた。
「なあ、これ何なん?めっちゃ気になるわー」
「は、ふ」
未だにくるんが何を象徴しているのか理解出来ていないアントーニョさんは、渦巻き部分がくしゃくしゃになっている事もお構いなしに髪の毛を撫でてくる。
どうやら私が答えを言わなければいつまで経ってもこの人はアホ毛が何なのか、分からないんだろうな。
でも直球で答えを言えるほど、私はオープンな性格をしている訳ではなかった。だって、その、言い難いじゃないか。
私が変な反応をした時点で察してほしいのに、女の子である私に破廉恥な事を暴露しろと?恥じらいを捨てされと言うのか、この鈍感は。
…そんな事、出来る訳無いじゃないか。これでも昔は清楚で良い子とか言われていたのに…え、今?それはまた別の話と言う事で。
とにかく、くるんの正体が何なのかを私の口から説明する事は出来ない。ぷるぷると首を振って口を噤む事しか出来ないのだ。
ああもう、誰でも良いからこの鈍感な方を私から引き剥がして下さい。と言うか上司はまだなのか、もう終わってもいい筈の時間なんだけど!
ぼろりと零れ落ちる涙を掌で拭い、アントーニョさんを見上げる。そこで漸く私が泣いている事に気付いたのか、ぎょっと目を真ん丸くする彼が目の前に居た。遅い。
「え、え?なんで泣いてるん?そんな痛かったん?」
「うぅ…うううー」
「ごめんって、なあ、謝るから泣かんといて…じゃないとロ」
「あれ?アントーニョ兄ちゃんと…?どうかしたの?」
「…あー、見つかってもうた」
アントーニョさんが言い掛けた言葉を遮って然程遠くない場所から聞きなれた声が聞こえた。
柔らかい口調のその声に肩を震わせて振り返る。頭の上で跳ねたのは、私と同じ渦巻き状のアホ毛だった。
フェリシアーノさん、と彼の名前を呟くと、呼ばれた彼はアホ毛を揺らして小さく「ヴェ」と鳴き声とも呼べる謎の単語を発する。きょとん、と首を傾げる仕草はまるで小動物のような可愛さだ。
けどその顔も私が目を真っ赤にしている事に気付くと眉を顰めて駆け寄ってきてくれる。ふわりと花の香りが懐かしく思えて、またぶわっと胸の奥から込み上がってくるものがあった。
ぽすりとフェリシアーノさんの胸に駆け込んでぎゅっと服を握りしめると、彼は子供をあやすように頭を優しく撫でてくれる。あったかい。
包み込まれる優しい気持ちにさっきまでのもやもやとした気分が徐々に薄くなっていく。こんなに安らかな気分になるのはきっとフェリシアーノさんが私の母国だからに違いない。
落ち着いた、と首を傾げる彼にこくりと小さく頷いて目の端に溜まっていた涙を拭われると、また遠くない場所からひょっこりと新しいアホ毛が顔を覗かせた。
「てめ、アントーニョ!なに泣かせてんだ!」
「ロヴィ!ちが、これにはちょっとした訳が」
「どうせてめーの鈍感の所為だろうが!」
「ちょっ…話聞いてー!」
フェリシアーノさんとは逆の方向に跳ねたくるんがぶるぶると震えて、ロヴィーノさんは問答無用とばかりにアントーニョさんに得意技である頭突きをお見舞いする。
鈍い音が辺りに響いて痛そうだな、とは思ったけど止めることはしなかった。だってそれ相応の事をしでかしたんだもの、この鈍感親分は。
それよりもフェリシアーノさんとロヴィーノさん、二人がこの場所に居る事に聊か疑問に思う。ここはイタリアでも無ければスペインでもない場所だからだ。
そして私は忙しい二人の代理として仕事に来ている訳で、ここに彼等が居る筈無いのだ。でも私を抱きしめている腕は幻覚などでは無いし、アントーニョさんに頭突きを噛ましたのも本物のロヴィーノさんだ。
じゃあどうして、と首を傾げてフェリシアーノさんを見やると、私の聞きたい事が分かったのか、彼はぱちりとウィンクして二人に聞こえないように耳打ちをした。
「俺達の大事なが泣いてたから飛んできたんだよ」
「…あり、がとう。でも仕事は?」
「えっ…えー、そこは目を瞑る所だよ、」
「ほったらかして来たんですね…もう、ルートヴィッヒさんがまた怒りますよ」
こっそりと告げられた言葉に苦笑して、止まないロヴィーノさんの罵声に耳を傾ける。さっき私が言った暴言よりも更に酷い放送禁止用語が沢山並べられていて、思わず耳を塞ぎたくなったのは言うまでも無い。
流石にそろそろ止めてあげなければアントーニョさんが可哀想だ。しゅん、と縮こまってしまっている彼も事の重大さが分かったのか、ロヴィーノさんの言われるがままになってしまっているし。
フェリシアーノさんにお礼を言って拘束を解いて貰ってアントーニョさんに駆け寄ると、今度はアントーニョさんが綺麗な緑の瞳を潤ませてぼろりと涙を滲ませたのでびっくりした。そしてぎゅっと抱きしめられてごめんなああ、と一言。
きっとまだどうして私が泣いたのか分かっていないと思うけれど、ここまで謝られたら許すしかないじゃないか。
ぽんぽん、とフェリシアーノさんがしてくれたみたいにアントーニョさんの頭を撫でて、落ち着かせるように微笑みかける。抱きしめられる力が強くなってちょっと痛かった。
「ああありがとうなああ、ちゃんほんま大好きやわー!」
「あー、はいはい」
それは分かりましたからそろそろ放してくれないとまたロヴィーノさんに怒られますよ。ほら、後ろからオーラが漂ってきてるし。
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グダグダでオチが見つからない。ちなみに泣いた原因を聞いたロヴィーノさんはもう一発親分に頭突きをお見舞いしたのでした。
[2010.04.17]
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