フェリシアーノさんと、
とろりと軟らかくなったジェラートに齧り付けば、口の中いっぱいに濃厚なバニラの味が広がっていく。
その後にヨーグルトの爽やかな甘さが喉を通り、こくりと飲みこめばもうそこにはジェラートの姿はすっかり無くなっていた。
冷たいそれは夏の定番としてよく自国で売り出されているが、このイタリアでもそれは同じだ。
真っ白なバニラとヨーグルトの組み合わせに満足しながら、私はぺろりと口の端に付いたジェラートを拭った。
「仕事のついでとはいえジェラートまで奢って頂いて…本当にありがとうございます」
「ヴェ〜、さん前から本場のジェラート食べたいって言ってたでしょ?だからいつもお世話になってるお礼!」
「それはそれは…益々ありがとうございます、おいひいです」
そう言って隣を歩いていたフェリシアーノさんはにこり、とまるで太陽のように明るく笑った。
くるんと一際目立つくせ毛を揺らして、かつかつと革靴が石畳を鳴らす。
いつもの「ヴェ」を鳴き声のように言いながら歩くその様は軍の先頭に立つ人とは思えない。と言うかむしろ国とすら思えない。
木の棒で突いただけで泣く、完全武装で挑んでも銃を突きつけられれば即降伏、白旗は常に持参。
こんなヘタレな人がよく立派な国になったなあとしみじみと思ってしまう。
きっと立派になるまで多大な努力をしていたのだろう。けれど…本当に弱そうだなあ。
つんつん、とフェリシアーノさんの頬を突くと、首を傾げてどうしたの?と問い掛けてくる。
それを軽く無視してべしべしと今度は少し強めに突いてみると、段々と茶色い目が潤んでくる。
「ヴェッヴェ〜っ!痛いよさああん」
「あ、ごめんなさい。ついうっかり」
うっかりで泣かせてしまうのはどうかと思うのだが、そこはやっぱりヘタレなフェリシアーノさんだから仕方ない。
少しだけ赤くなった頬を目を細めて撫でる姿は全くと言っていいほど年上には見えなかった。
精神年齢が幼いので見下してしまいがちなのだが、これでも結構歳行ってるらしいからびっくりだ。本当に国の皆さんは私にとって興味深い以外の何物でもない。
ぼろぼろと涙を零させるにはいかないので(そんな事したらもれなく私の首が吹っ飛びます)、頭を下げて何度も謝ると、フェリシアーノさんは慌てて首を横に振った。
大丈夫、と直ぐにふにゃっとしたいつもの笑みに戻る彼にほっと胸を撫で下ろし、溶けたジェラートを齧った。
「それよりも、さん元気になって良かった」
「え?…私体調とか崩してませんけど…」
「ヴェ、なんか最近元気ないように見えたよ」
「うぇ」
そうですか?と言いかけた口はジェラートを飲み込んでいて、変な声が出た。
少しだけ噎せてしまって咳をしてしまい、フェリシアーノさんが私の背中を擦った。
涙目になりながらそれを手で制し、言われた言葉の意味を考える。ジェラートはすっかり溶けきってしまったのでコーンごと無理矢理口の中へと放り込んだ。
普段人前ではあまり感情を出さないようにしているのだが(それでもたまに地が出てしまう)、最近はそれも徹底していたはずだ。
特に周りから心配されたことはないし、今フェリシアーノさんに言われて初めて気がついた。
でも私には元気が無い、と言われても思い当たる節が…、…無い、と思いたいのだが、一つだけある気がする。
それはあの―…前に見た、夢の出来事。
神聖ローマさんが出てきた夢のあと、改めてアントーニョ氏から焼き増ししてもらった写真を見返すと、一枚だけ神聖ローマさんが写っていた写真が見つかった。
それは隠し撮りされたらしき物で、フェリシアーノさんと一緒に絵を書いている写真だった(くるんの方向でフェリシアーノさんと確信した)。
二人で楽しそうに笑っているその写真は焼き増ししても古いもので、大分色褪せていたが、二人を識別するには十分だった。
あれからと言うもの…フェリシアーノさんとどう接していいのか分からなくなってきている。
夢の影響は少なからず出てしまっているようで、話していても神聖ローマさんの顔がちらちらと頭に浮かんでしまうのだ。しかも似てるからと言ってルート氏と話している時だってその現象は起きる。
無意識の内にやってしまっているのは何となくわかっていたけれど…それほどあからさまだったのだろうか。でもルート氏には何も言われなかったしなぁ。
もしかしたらフェリシアーノさんだからこそ、何かを感じ取ったのかもしれない。…流石に考えすぎかな?
とにかく、この話を説明しようにも、相手が相手なので非常に言いにくい事この上ない。
内容もきっとフェリシアーノさんにとってデリケートな問題だと思うし…と思うと余計に口が堅くなる。
きっと話さないほうがいいんだろう。話しても夢の中の出来事なので信じてもらえるかも怪しい。
けれど、目の前に居る彼があまりにも真剣に心配するから、戸惑ってしまう。
「さん、そんなに辛い事があったの?」
「…や、辛いんじゃないんです。ただ…その、うーん」
「悩み事なら俺、なんでも聞くよ?」
眉尻を下げてフェリシアーノさんが近くのレンガの塀に腰を掛けた。
古い赤茶のレンガは所々掛けていて、レンガの隙間からは小さな草が生えている個所もある。
私もフェリシアーノさんの横へと移動してレンガに背中を預ける。少しだけひんやりとした肌触りが気持ち良かった。
「なんて言えば良いんでしょう…その、えーと」
「俺、難しい事は分かんないから、出来れば直球でお願いしたいんだけど…」
「うー…」
そう言われると益々言いよどんでしまう。胸の奥にしまっておきたい話。でも、言わなければきっと…フェリシアーノさんたちに迷惑を掛ける事になる(今だってそうだ)。
間延びした声を漏らして視線を彷徨わせ、ちらりとフェリシアーノさんを盗み見る。
う、凝視されている。それもいつも目を細めている筈なのに今に限って大変珍しい両目開眼だ。
くるんがひょこひょこと揺れて急いているのが分かり、私は結局、押しに負けた。
「その…非常に言いにくいんですが…その、神聖ローマさんに、お会いしたんです」
「…え?ど、どこで?」
「それが…その、…私の夢の中ででして、あの」
ぽかり、と口を開けたフェリシアーノさんは直ぐに私の肩を掴んで真剣な眼差しで言った。
その声からは焦りを含んでいることがはっきりと見て取れた。当たり前だ、何せ―…居ないはずの、人に出会ったと言うのだから。
いつものほんわかとはまるで正反対の焦燥感を漂わせる彼に一瞬驚きつつも、落ち着いてください、と私は肩を掴む手を握った。
フェリシアーノさんはそこではた、と自分のしている事に気付いたようで、上がっていた肩をすとんと落とした。
「…ごめん、びっくりしちゃって」
「いえ、お気持ちは分かりますから。…あの、信じてはもらえないかもしれないんですが」
「信じるよ。そこまでさんが悩んでくれたことなんだから」
「…ありがとう、ございます」
そうやって、私は少しずつ、フェリシアーノさんに夢の話を呟き始めた。
まずはどうしてそんな夢を見るのか、から。見始めた時期はもう幾年も前なのですっかり忘れてしまっていたのだが、記憶している分では子供の頃から見ていた気がする。
知らないはずの他人の夢、誰かの過去の記憶。流石に未来の出来事は見ていないはず(断言出来ないのは赤の他人の出来事だからだ)だが、話してみると大分私は人のプライバシーの侵害をしているようだ。
見たくて見ている訳ではないので余計に罪悪感が増してしまうけれど、今は見なかったことにしておこう…。
ぽろぽろと語り出す私に、フェリシアーノさんは相槌だけ打って真剣に聞いてくれていた。
だから安心して全部を話すことが出来たんだろう。こんな話、親にだって言わなかったし、フェリシアーノさんが初めてだ。
最後に神聖ローマさんと出会った話をして、私は大きく深呼吸をした。ここまで長い間喋っているのは何年ぶりだろう、と思いながら。
フェリシアーノさんは何かを考えているようで、口に掌を当てて目を閉じていた。
やがて自分の中で踏ん切りがついたのか、薄く目を開けて小さな声で呟いた。
「…、そっか。…元気だった?」
「え?」
「神聖ローマ。笑ってくれてた?」
そう言って儚げに笑う彼を見て、思わずこくり、と頷く。いや、笑っていたのは確かなので嘘は付いていないんだけれども。
彼の笑みがあまりにも薄い笑みだったのでこのまま消えてしまいそうに思えてしまう。
けれど実際にはそんなことはない。彼らが消えるのは私が死ぬのよりもずっと後のはずだ。ずっと、ずっと。
彼らにとって人間の一生は刹那に過ぎない。私もまた、彼らにとっては一瞬の出来事に過ぎないのだろう。
国が滅ぶその時を我々人間は一生の内に見る事が出来るのは非常に稀だ。今となってはもう、無いに等しいのかもしれない(そう思いたい)。
けれど、国である彼らは幾年もの年月を重ね、同じ時間を歩む者の最期を見届けたことはあるはずだ。…フェリシアーノさんも例外じゃない。
彼らはその時、どう思っていたのだろうか。悲しんだのだろうか、それとも自らの領土を拡大させたと喜ぶのだろうか。
…そこでふるふると頭を振って私は詮索するのを止める。これ以上考えても彼らに対して失礼な事しか浮かばないからだ。
フェリシアーノさんは頭を振ってくしゃくしゃになった私の髪をゆっくりと撫で上げて深い深呼吸をした。
「そっか、…いつもあの子には怒らせてばっかりだったから。笑ってくれて、よかった。…ありがと、さん、話してくれて」
「いえ、でも私何もお役に立てなかったです…」
「ううん、あのこが笑ってくれてた。それがわかっただけで十分だよ」
「…フェリシアーノさん…」
ふわふわと優しく撫でる手付きは変わらない。けれど、フェリシアーノさんの目は少しだけ潤んでいた。
きらきらしたその瞳に、よっぽどあのこが大切だったんだなあ、と分かる。
幸せそうな小さな子供を想像してくすり、と笑い、私はフェリシアーノさんの背中に手を回した。
「…神聖ローマさん、フェリシアーノさんはあなたの事、今もずっと忘れてないですよ」
抱きついてくるフェリシアーノさんをあやして私は空に向かってそう小さく呟いた。
その後にヨーグルトの爽やかな甘さが喉を通り、こくりと飲みこめばもうそこにはジェラートの姿はすっかり無くなっていた。
冷たいそれは夏の定番としてよく自国で売り出されているが、このイタリアでもそれは同じだ。
真っ白なバニラとヨーグルトの組み合わせに満足しながら、私はぺろりと口の端に付いたジェラートを拭った。
「仕事のついでとはいえジェラートまで奢って頂いて…本当にありがとうございます」
「ヴェ〜、さん前から本場のジェラート食べたいって言ってたでしょ?だからいつもお世話になってるお礼!」
「それはそれは…益々ありがとうございます、おいひいです」
そう言って隣を歩いていたフェリシアーノさんはにこり、とまるで太陽のように明るく笑った。
くるんと一際目立つくせ毛を揺らして、かつかつと革靴が石畳を鳴らす。
いつもの「ヴェ」を鳴き声のように言いながら歩くその様は軍の先頭に立つ人とは思えない。と言うかむしろ国とすら思えない。
木の棒で突いただけで泣く、完全武装で挑んでも銃を突きつけられれば即降伏、白旗は常に持参。
こんなヘタレな人がよく立派な国になったなあとしみじみと思ってしまう。
きっと立派になるまで多大な努力をしていたのだろう。けれど…本当に弱そうだなあ。
つんつん、とフェリシアーノさんの頬を突くと、首を傾げてどうしたの?と問い掛けてくる。
それを軽く無視してべしべしと今度は少し強めに突いてみると、段々と茶色い目が潤んでくる。
「ヴェッヴェ〜っ!痛いよさああん」
「あ、ごめんなさい。ついうっかり」
うっかりで泣かせてしまうのはどうかと思うのだが、そこはやっぱりヘタレなフェリシアーノさんだから仕方ない。
少しだけ赤くなった頬を目を細めて撫でる姿は全くと言っていいほど年上には見えなかった。
精神年齢が幼いので見下してしまいがちなのだが、これでも結構歳行ってるらしいからびっくりだ。本当に国の皆さんは私にとって興味深い以外の何物でもない。
ぼろぼろと涙を零させるにはいかないので(そんな事したらもれなく私の首が吹っ飛びます)、頭を下げて何度も謝ると、フェリシアーノさんは慌てて首を横に振った。
大丈夫、と直ぐにふにゃっとしたいつもの笑みに戻る彼にほっと胸を撫で下ろし、溶けたジェラートを齧った。
「それよりも、さん元気になって良かった」
「え?…私体調とか崩してませんけど…」
「ヴェ、なんか最近元気ないように見えたよ」
「うぇ」
そうですか?と言いかけた口はジェラートを飲み込んでいて、変な声が出た。
少しだけ噎せてしまって咳をしてしまい、フェリシアーノさんが私の背中を擦った。
涙目になりながらそれを手で制し、言われた言葉の意味を考える。ジェラートはすっかり溶けきってしまったのでコーンごと無理矢理口の中へと放り込んだ。
普段人前ではあまり感情を出さないようにしているのだが(それでもたまに地が出てしまう)、最近はそれも徹底していたはずだ。
特に周りから心配されたことはないし、今フェリシアーノさんに言われて初めて気がついた。
でも私には元気が無い、と言われても思い当たる節が…、…無い、と思いたいのだが、一つだけある気がする。
それはあの―…前に見た、夢の出来事。
神聖ローマさんが出てきた夢のあと、改めてアントーニョ氏から焼き増ししてもらった写真を見返すと、一枚だけ神聖ローマさんが写っていた写真が見つかった。
それは隠し撮りされたらしき物で、フェリシアーノさんと一緒に絵を書いている写真だった(くるんの方向でフェリシアーノさんと確信した)。
二人で楽しそうに笑っているその写真は焼き増ししても古いもので、大分色褪せていたが、二人を識別するには十分だった。
あれからと言うもの…フェリシアーノさんとどう接していいのか分からなくなってきている。
夢の影響は少なからず出てしまっているようで、話していても神聖ローマさんの顔がちらちらと頭に浮かんでしまうのだ。しかも似てるからと言ってルート氏と話している時だってその現象は起きる。
無意識の内にやってしまっているのは何となくわかっていたけれど…それほどあからさまだったのだろうか。でもルート氏には何も言われなかったしなぁ。
もしかしたらフェリシアーノさんだからこそ、何かを感じ取ったのかもしれない。…流石に考えすぎかな?
とにかく、この話を説明しようにも、相手が相手なので非常に言いにくい事この上ない。
内容もきっとフェリシアーノさんにとってデリケートな問題だと思うし…と思うと余計に口が堅くなる。
きっと話さないほうがいいんだろう。話しても夢の中の出来事なので信じてもらえるかも怪しい。
けれど、目の前に居る彼があまりにも真剣に心配するから、戸惑ってしまう。
「さん、そんなに辛い事があったの?」
「…や、辛いんじゃないんです。ただ…その、うーん」
「悩み事なら俺、なんでも聞くよ?」
眉尻を下げてフェリシアーノさんが近くのレンガの塀に腰を掛けた。
古い赤茶のレンガは所々掛けていて、レンガの隙間からは小さな草が生えている個所もある。
私もフェリシアーノさんの横へと移動してレンガに背中を預ける。少しだけひんやりとした肌触りが気持ち良かった。
「なんて言えば良いんでしょう…その、えーと」
「俺、難しい事は分かんないから、出来れば直球でお願いしたいんだけど…」
「うー…」
そう言われると益々言いよどんでしまう。胸の奥にしまっておきたい話。でも、言わなければきっと…フェリシアーノさんたちに迷惑を掛ける事になる(今だってそうだ)。
間延びした声を漏らして視線を彷徨わせ、ちらりとフェリシアーノさんを盗み見る。
う、凝視されている。それもいつも目を細めている筈なのに今に限って大変珍しい両目開眼だ。
くるんがひょこひょこと揺れて急いているのが分かり、私は結局、押しに負けた。
「その…非常に言いにくいんですが…その、神聖ローマさんに、お会いしたんです」
「…え?ど、どこで?」
「それが…その、…私の夢の中ででして、あの」
ぽかり、と口を開けたフェリシアーノさんは直ぐに私の肩を掴んで真剣な眼差しで言った。
その声からは焦りを含んでいることがはっきりと見て取れた。当たり前だ、何せ―…居ないはずの、人に出会ったと言うのだから。
いつものほんわかとはまるで正反対の焦燥感を漂わせる彼に一瞬驚きつつも、落ち着いてください、と私は肩を掴む手を握った。
フェリシアーノさんはそこではた、と自分のしている事に気付いたようで、上がっていた肩をすとんと落とした。
「…ごめん、びっくりしちゃって」
「いえ、お気持ちは分かりますから。…あの、信じてはもらえないかもしれないんですが」
「信じるよ。そこまでさんが悩んでくれたことなんだから」
「…ありがとう、ございます」
そうやって、私は少しずつ、フェリシアーノさんに夢の話を呟き始めた。
まずはどうしてそんな夢を見るのか、から。見始めた時期はもう幾年も前なのですっかり忘れてしまっていたのだが、記憶している分では子供の頃から見ていた気がする。
知らないはずの他人の夢、誰かの過去の記憶。流石に未来の出来事は見ていないはず(断言出来ないのは赤の他人の出来事だからだ)だが、話してみると大分私は人のプライバシーの侵害をしているようだ。
見たくて見ている訳ではないので余計に罪悪感が増してしまうけれど、今は見なかったことにしておこう…。
ぽろぽろと語り出す私に、フェリシアーノさんは相槌だけ打って真剣に聞いてくれていた。
だから安心して全部を話すことが出来たんだろう。こんな話、親にだって言わなかったし、フェリシアーノさんが初めてだ。
最後に神聖ローマさんと出会った話をして、私は大きく深呼吸をした。ここまで長い間喋っているのは何年ぶりだろう、と思いながら。
フェリシアーノさんは何かを考えているようで、口に掌を当てて目を閉じていた。
やがて自分の中で踏ん切りがついたのか、薄く目を開けて小さな声で呟いた。
「…、そっか。…元気だった?」
「え?」
「神聖ローマ。笑ってくれてた?」
そう言って儚げに笑う彼を見て、思わずこくり、と頷く。いや、笑っていたのは確かなので嘘は付いていないんだけれども。
彼の笑みがあまりにも薄い笑みだったのでこのまま消えてしまいそうに思えてしまう。
けれど実際にはそんなことはない。彼らが消えるのは私が死ぬのよりもずっと後のはずだ。ずっと、ずっと。
彼らにとって人間の一生は刹那に過ぎない。私もまた、彼らにとっては一瞬の出来事に過ぎないのだろう。
国が滅ぶその時を我々人間は一生の内に見る事が出来るのは非常に稀だ。今となってはもう、無いに等しいのかもしれない(そう思いたい)。
けれど、国である彼らは幾年もの年月を重ね、同じ時間を歩む者の最期を見届けたことはあるはずだ。…フェリシアーノさんも例外じゃない。
彼らはその時、どう思っていたのだろうか。悲しんだのだろうか、それとも自らの領土を拡大させたと喜ぶのだろうか。
…そこでふるふると頭を振って私は詮索するのを止める。これ以上考えても彼らに対して失礼な事しか浮かばないからだ。
フェリシアーノさんは頭を振ってくしゃくしゃになった私の髪をゆっくりと撫で上げて深い深呼吸をした。
「そっか、…いつもあの子には怒らせてばっかりだったから。笑ってくれて、よかった。…ありがと、さん、話してくれて」
「いえ、でも私何もお役に立てなかったです…」
「ううん、あのこが笑ってくれてた。それがわかっただけで十分だよ」
「…フェリシアーノさん…」
ふわふわと優しく撫でる手付きは変わらない。けれど、フェリシアーノさんの目は少しだけ潤んでいた。
きらきらしたその瞳に、よっぽどあのこが大切だったんだなあ、と分かる。
幸せそうな小さな子供を想像してくすり、と笑い、私はフェリシアーノさんの背中に手を回した。
「…神聖ローマさん、フェリシアーノさんはあなたの事、今もずっと忘れてないですよ」
抱きついてくるフェリシアーノさんをあやして私は空に向かってそう小さく呟いた。
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少しラストが無理矢理過ぎた気もしますが私的には満足です。ここまでお付き合い頂き有難う御座いました。
[2009.09.01]
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