アーサー氏と、
珍しく呼び出されたから急いできたのになんてことない、ただの雑談。
正直緊急事態だと思って飛行機ぶっ放してきた自分が馬鹿らしくなった。
「むかつくこの眉毛むしり取っていいですか」
「嫌だな」
ちくしょうトレードマークのゲジ眉を剃る為のカミソリだって常に持ち合わせていると言うのに。
この眉毛―アーサー氏はいつまで経っても剃らせてくれない。
あんなぶっとい眉毛、剃ったら格好良いと思うんだけどな…次会ったら「誰?」ってなるけど。
アーサー氏の顔は眉毛で覚えている訳だし、その眉毛を剃ってしまえば当然の事だろう。
「と言うか何故私なんですか…ここまで来るのに何時間掛かったと…」
「そう思うんだったらアルに戦闘機貸せっていつもみたいに言えば良かっただろ」
「アルさん今自分のとこのパレードか何か知りませんがそれで手が離せないとか言ってたんで貸してくれませんでした」
「祭り好きだなあ、あいつも」
ちなみにアルさんと言うのは私の国によく遊びに来る自称ヒーローさん。
そしてこのアーサー氏の弟らしい。どちらにせよ、私の国からは双方の家は半端なく遠い。
アルさんの戦闘機は私の国に置いてあるもので、私は遠出をする時よく借りていたりする。
電話で貸せと言ったのに周りが五月蠅いのかアルさんの声も聞きとり辛かったし…。
きっと今頃食べ物じゃない蛍光色をしたケーキに埋もれてるに違いない。想像しただけで気分が悪くなる…。
「で、用件はなんですか」
「ん?…ああ、そうだったな。これと言った重要な事は無いが…」
「用件無しでこの私を呼ぶとはこの眉毛…何がなんでも剃り落としてくれる」
「だから却下だ。とりあえず…紅茶飲むか?」
「当たり前です」
密かに懐に忍ばせていたカミソリを出そうかと本気で悩んだけれど、アーサー氏の家の紅茶を飲まずにはいられない。
ご飯はすごくまずいけれど(流石アルさんの兄、食べ物がモザイクで表現されるとは不思議だ)、何故か紅茶はアーサー氏の所が一番美味しい。
私もアフタヌーンティーはアーサー氏の茶葉を貰って飲んでいるほどだ。コーヒーより紅茶派の私にとって至福の時以外の何でもない。
それに、ここまで来て手土産の一つも無いまま帰るなんて無駄足にも程がある。
「何か他にパクってこうかと思ったけど…駄目だ、悪いものしか浮かばない…」
「お前本人目の前にしてよくそんな事言えるな…」
「まあ性格ですから」
ことり、とアーサー氏が私の前にティーカップを置いた。そこには色鮮やかな紅茶が注がれていて、ふんわりと良い香りが鼻をくすぐる。
細かい花柄が描かれたそのカップをソーサーごと持って、私は一口、こくりと紅茶を飲む。
「…あっつ」
「淹れたてだからな」
「私が猫舌だと知っての嫌がらせか…紅茶ぶっ掛けてあげましょうか」
「どうしてそうなる!」
ひりひりする舌と紅茶を冷ましつつ、アーサー氏の何処かパクれる所をつらつらと思い浮かべる。
だが、やはり印象に残るのはまずいご飯、破廉恥な事、お酒が入ったら大変な事になる事、そんなのしか浮かばない。
紅茶はいつも貰っている訳だし、軍とかその辺の辺りはパンジャンドラムとか言う奇天烈兵器を生み出す国なのでこちらが拒否したい所だ。
ならやっぱり土地か、土地なのか。でもこんな所に別荘建ててもあまり嬉しくない…。遠いし。
「うーん…アーサー氏の取り柄が全く浮かばない…むしろ可哀想に思えてきた…」
「うるさいこの馬鹿!」
あ、半泣きになった。でも否定はしない、本当のことだもの。
と言うか私ってつくづく毒吐いてるなあ、と思う。なんだか嫌われることばっかり言い放題。
それでも何故か人は寄ってくるので不思議だ。何故だろう、職業柄、人と会う機会が多いからかな。
「あ、言い方がまずかったですね。取り柄は紳士的な所とか紅茶美味しいとかご飯美味しくないとか眉毛とかあるんですけど」
「後半貶してるだろ…」
「気の所為ですよ。ただ、パクるとなると紅茶と土地しか貰えるものがないので」
「お前…」
心底呆れた、と言った表情でアーサー氏が頭を抱えた。
でも言い返してこない所を見るとどうやら図星らしい。仕方ないと言うかなんと言うか。
そんなにアーサー氏の事を貶し放題な私ですが、それほどアーサー氏が嫌いと言う訳でも無い。
取り柄は本当に事実を言ったまでだし、私の国にはないアンティーク調の街の雰囲気は大好きだし。
本当に嫌いならまず呼ばれても来なかったし。今回は私に直接電話してきたけど上司に繋げて貰ってたら嫌とは言えないし。
はあ…振り回される側って大変です。だからきっとこんな毒吐く性格になっちゃったのかなあ。
「…まあ土地はやらないが紅茶なら欲しければやるぞ」
「なにか新作とかあったら欲しいです。あといつもの詰め合わせも」
「新作なあ…。今飲んでる奴とかそうだぞ」
「え」
そう言われて丁度良い具合に冷めた自分の紅茶を見下ろした。
…全く気が付かなかった。いつもの紅茶を淹れてもらったと思い込んでた…。
まあ無理も無いか、一口しか飲んでいないし、その一口も熱過ぎて味が分からなかったし。
まじまじと夕焼け色をした液体を見つめ、こくりと口にする。
「…。…濃いですね」
「そりゃあミルクティー用に作った奴だからな。ストレートは濃いだろ」
「それを早く言えとこの眉毛」
「眉毛は余計だ!」
見事なゲジ眉に皺を寄せたアーサー氏を余所に、私は直ぐ近くに置いてあったミルク瓶を手に取った。
そう言えばアーサー氏の家の紅茶って普通はミルクティーなんだっけ…。
よく見ればアーサー氏の持っているカップの中身も透明ではなく乳白色だ。
いつも私に出されるのはストレートティーなので全然気が付かなかった…一生の不覚。
ミルクを入れた紅茶が白く濁り始めて、私はスプーンをくるくると回した。そしてまたこくりと一口。
「…美味いか?」
「んー…ミルクティーなんて滅多に飲まないので新鮮と言えば新鮮です。美味しいんじゃないでしょうか」
「そうか、良かった」
そう言ってアーサー氏は自分のカップに新しいお茶を注いでいた。多分私と同じお茶だと思う。
嬉々とした表情がここからでも窺えて、余程嬉しかったんだなあ、と呟いた。
「お前が美味しいって言ったんだから売り出しは確定だな」
「え、なにそれ私毒味だったんですか」
答えはもちろん「はい」でした。ああ、またゲジ眉むしりたくなってきた。
正直緊急事態だと思って飛行機ぶっ放してきた自分が馬鹿らしくなった。
「むかつくこの眉毛むしり取っていいですか」
「嫌だな」
ちくしょうトレードマークのゲジ眉を剃る為のカミソリだって常に持ち合わせていると言うのに。
この眉毛―アーサー氏はいつまで経っても剃らせてくれない。
あんなぶっとい眉毛、剃ったら格好良いと思うんだけどな…次会ったら「誰?」ってなるけど。
アーサー氏の顔は眉毛で覚えている訳だし、その眉毛を剃ってしまえば当然の事だろう。
「と言うか何故私なんですか…ここまで来るのに何時間掛かったと…」
「そう思うんだったらアルに戦闘機貸せっていつもみたいに言えば良かっただろ」
「アルさん今自分のとこのパレードか何か知りませんがそれで手が離せないとか言ってたんで貸してくれませんでした」
「祭り好きだなあ、あいつも」
ちなみにアルさんと言うのは私の国によく遊びに来る自称ヒーローさん。
そしてこのアーサー氏の弟らしい。どちらにせよ、私の国からは双方の家は半端なく遠い。
アルさんの戦闘機は私の国に置いてあるもので、私は遠出をする時よく借りていたりする。
電話で貸せと言ったのに周りが五月蠅いのかアルさんの声も聞きとり辛かったし…。
きっと今頃食べ物じゃない蛍光色をしたケーキに埋もれてるに違いない。想像しただけで気分が悪くなる…。
「で、用件はなんですか」
「ん?…ああ、そうだったな。これと言った重要な事は無いが…」
「用件無しでこの私を呼ぶとはこの眉毛…何がなんでも剃り落としてくれる」
「だから却下だ。とりあえず…紅茶飲むか?」
「当たり前です」
密かに懐に忍ばせていたカミソリを出そうかと本気で悩んだけれど、アーサー氏の家の紅茶を飲まずにはいられない。
ご飯はすごくまずいけれど(流石アルさんの兄、食べ物がモザイクで表現されるとは不思議だ)、何故か紅茶はアーサー氏の所が一番美味しい。
私もアフタヌーンティーはアーサー氏の茶葉を貰って飲んでいるほどだ。コーヒーより紅茶派の私にとって至福の時以外の何でもない。
それに、ここまで来て手土産の一つも無いまま帰るなんて無駄足にも程がある。
「何か他にパクってこうかと思ったけど…駄目だ、悪いものしか浮かばない…」
「お前本人目の前にしてよくそんな事言えるな…」
「まあ性格ですから」
ことり、とアーサー氏が私の前にティーカップを置いた。そこには色鮮やかな紅茶が注がれていて、ふんわりと良い香りが鼻をくすぐる。
細かい花柄が描かれたそのカップをソーサーごと持って、私は一口、こくりと紅茶を飲む。
「…あっつ」
「淹れたてだからな」
「私が猫舌だと知っての嫌がらせか…紅茶ぶっ掛けてあげましょうか」
「どうしてそうなる!」
ひりひりする舌と紅茶を冷ましつつ、アーサー氏の何処かパクれる所をつらつらと思い浮かべる。
だが、やはり印象に残るのはまずいご飯、破廉恥な事、お酒が入ったら大変な事になる事、そんなのしか浮かばない。
紅茶はいつも貰っている訳だし、軍とかその辺の辺りはパンジャンドラムとか言う奇天烈兵器を生み出す国なのでこちらが拒否したい所だ。
ならやっぱり土地か、土地なのか。でもこんな所に別荘建ててもあまり嬉しくない…。遠いし。
「うーん…アーサー氏の取り柄が全く浮かばない…むしろ可哀想に思えてきた…」
「うるさいこの馬鹿!」
あ、半泣きになった。でも否定はしない、本当のことだもの。
と言うか私ってつくづく毒吐いてるなあ、と思う。なんだか嫌われることばっかり言い放題。
それでも何故か人は寄ってくるので不思議だ。何故だろう、職業柄、人と会う機会が多いからかな。
「あ、言い方がまずかったですね。取り柄は紳士的な所とか紅茶美味しいとかご飯美味しくないとか眉毛とかあるんですけど」
「後半貶してるだろ…」
「気の所為ですよ。ただ、パクるとなると紅茶と土地しか貰えるものがないので」
「お前…」
心底呆れた、と言った表情でアーサー氏が頭を抱えた。
でも言い返してこない所を見るとどうやら図星らしい。仕方ないと言うかなんと言うか。
そんなにアーサー氏の事を貶し放題な私ですが、それほどアーサー氏が嫌いと言う訳でも無い。
取り柄は本当に事実を言ったまでだし、私の国にはないアンティーク調の街の雰囲気は大好きだし。
本当に嫌いならまず呼ばれても来なかったし。今回は私に直接電話してきたけど上司に繋げて貰ってたら嫌とは言えないし。
はあ…振り回される側って大変です。だからきっとこんな毒吐く性格になっちゃったのかなあ。
「…まあ土地はやらないが紅茶なら欲しければやるぞ」
「なにか新作とかあったら欲しいです。あといつもの詰め合わせも」
「新作なあ…。今飲んでる奴とかそうだぞ」
「え」
そう言われて丁度良い具合に冷めた自分の紅茶を見下ろした。
…全く気が付かなかった。いつもの紅茶を淹れてもらったと思い込んでた…。
まあ無理も無いか、一口しか飲んでいないし、その一口も熱過ぎて味が分からなかったし。
まじまじと夕焼け色をした液体を見つめ、こくりと口にする。
「…。…濃いですね」
「そりゃあミルクティー用に作った奴だからな。ストレートは濃いだろ」
「それを早く言えとこの眉毛」
「眉毛は余計だ!」
見事なゲジ眉に皺を寄せたアーサー氏を余所に、私は直ぐ近くに置いてあったミルク瓶を手に取った。
そう言えばアーサー氏の家の紅茶って普通はミルクティーなんだっけ…。
よく見ればアーサー氏の持っているカップの中身も透明ではなく乳白色だ。
いつも私に出されるのはストレートティーなので全然気が付かなかった…一生の不覚。
ミルクを入れた紅茶が白く濁り始めて、私はスプーンをくるくると回した。そしてまたこくりと一口。
「…美味いか?」
「んー…ミルクティーなんて滅多に飲まないので新鮮と言えば新鮮です。美味しいんじゃないでしょうか」
「そうか、良かった」
そう言ってアーサー氏は自分のカップに新しいお茶を注いでいた。多分私と同じお茶だと思う。
嬉々とした表情がここからでも窺えて、余程嬉しかったんだなあ、と呟いた。
「お前が美味しいって言ったんだから売り出しは確定だな」
「え、なにそれ私毒味だったんですか」
答えはもちろん「はい」でした。ああ、またゲジ眉むしりたくなってきた。
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眉毛書き易いよ眉毛!
[2009.07.11]
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